意味をなさなくなった古い規制に既得権者が巣喰って温存され、新しいビジネスを始めようとする者が邪魔をされて利用者が不便を被る──この国の至るところに見られる利権の構図だが、その典型例が「病院の入院用ベッド」だと、政策工房社長の原英史氏は訴える。
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評判のよい病院に入院しようとすると、「2か月先まで予約でいっぱい」といった話がよくある。これは考えてみればおかしな話だ。医療以外の分野、例えば観光地のホテルだったら、予約いっぱいの状態になれば、追加投資して部屋数を増やすのが当たり前。さらに他の事業者も参入して、周りにもホテルが並び立つはずだ。
ところが、医療機関の場合はこうしたことが起きない。なぜかというと、さまざまな規制でがんじがらめになっているためだ。
医療の世界は、普通のビジネスとはかなり異なる。日本は市場経済社会だから、一般に商品やサービスの価格と量は、需要と供給に応じて市場で決定される。ところが、医療の世界では価格は公定価格、提供されるサービス量も役所が規制する。
価格は診療の類型に応じた報酬額が一律に公定される診療報酬制度。数量については、ベッド数を役所が規制する「病床規制」がある。さらに加えて、参入できるのは医療法人に限られ、一般の株式会社などは原則として認められない。
この種の規制は、介護、保育、教育、農業などの世界にもみられるパターンだが、医療の場合、「価格規制」「数量規制」「参入主体規制」の3点セットがきっちり揃っている、いわば完全統制経済体制だ。
※SAPIO2013年6月号