1960年代、奥飛騨のダム建設で水没した集落の住民が故郷を捨て東京に移住し、補償金を元手に見知らぬ都会で次々に連れ込み旅館を開いた。ホテル街は、明治時代から続く花街の文化をのみ込んでいった。円山町が、100軒以上がひしめくといわれるラブホテル激戦区となったいきさつである。
そして現在──ラブホテル評論家・日向琴子氏は、「若いときならいざ知らず、いまさらラブホテルは……と敬遠する大人の男性にこそ、いまの円山町に女性を誘ってほしい」という。
「汚くて臭い、昔ながらのラブホテルは円山町から消えつつあります。掃除が行き届いており、女性が嫌がるタバコのニオイもしない、清潔感あふれるホテルが増えている。さらに最近の円山町は、『おもてなしの心』を大切にした接客重視の意識が根付いている」(日向氏)
こうした前提条件をクリアしたうえで、さまざまな嗜好に合わせたホテルがしのぎを削るのが、いまの円山町ホテル街なのだ。
気分を盛り上げるためには、清潔であることはもちろん、非日常の時間を味わえるような演出が欠かせない。可愛らしいアートで女性を楽しませたいなら「ホテル パリス」がおすすめ。50年代のアメリカに迷い込んだ気分になれる「DIXY INN」は、趣味や気分に合わせて部屋を選べるのも楽しい。「女性受けするポップなホテルと男性受けするレトロなホテルは、いまの二大潮流ですね」(日向氏)
もうひとつの好みの選択が、ラグジュアリーかユーザビリティ(使い勝手)かだ。全室に人工温泉を完備した「ホテル ヴィラジュリア」は、広々としたバスルームを備え、ナチュラルな内装のスペシャルスウィートなら、渋谷に居ながらリゾート気分を味わえ、もはや高級ホテルの佇まいだ。
※週刊ポスト2013年6月28日号