スポーツ

両リーグ首位打者江藤慎一氏 王の三冠王を2年連続阻止した

 スポーツライターの永谷脩氏が往年のプロ野球名選手のエピソードを紹介するこのコーナー。今回は、闘志溢れるプレーで観客を魅了した江藤慎一氏のエピソードを紹介しよう。

 * * *
 中日・ロッテで計3度の首位打者に輝き、史上初の「両リーグ首位打者」となった江藤慎一について思い出すのは、1975年、彼が太平洋(現・西武)で兼任監督を務めていた頃のことだ。

 試合後、江藤は宿舎でコーチを集めて車座になり、ミーティングをしていたが、その場には常にどんぶりに注がれた日本酒があった。負けた日でも、「終わったものはしゃあない。明日や明日」と最後は一気飲みをして散会するのが常。酒宴の途中に行こうものならばもう大変で、「駆けつけ3杯」と勧められ、何度もトイレに駆け込んだものだ。その豪快さと野蛮さから、当時は「山賊野球」と言われた。

 晩年は静岡の天城山中に野球塾を開いて後進の指導に当たり、プロ野球選手を3人も輩出した。その頃は「平和ですねェ」が口癖の好々爺になっていたが、野球人生は豪快そのものだった。

 熊本商高から社会人・日鉄二瀬を経て、1959年に中日に入団。初年からレギュラーとなり、1964~65年には首位打者を獲得して、王貞治の三冠王を2年連続で阻止するなど活躍した。江藤はとにかく四球を嫌悪する選手だった。歩いて塁に出るのも嫌いなら、自軍の投手が四球を出すのはなお嫌い。

「四球は逃げているとしか思えない。逃げるくらいなら打たれた方がマシや」

 四球の走者を塁上に置いた時、江藤の守る左翼に打球が飛んでも、追いかけなかったことは2度、3度ではきかなかった。野球も豪快なら、私生活も豪快。副業で営んでいた自動車工場を倒産させたこともある。

「借金取りが球場まで来て、ワシが凡打で終わると、不渡りにひっかけて“不当たり!”とヤジるのさ。ロッテでの首位打者は、それを言わせないために、ヒットを打ちまくった結果さ」

 大洋時代にも、試合が終わると川崎から銀座まで連日繰り出し痛飲するのだから、ツケはたまる一方だった。太平洋監督時代には、福岡にまで借金取りがやって来ていたほどだ。

 ただ、繊細な面もあった。中日のライバルであった巨人の城之内邦雄・藤田元司、阪神のバッキー・村山実のクセを、グラブの指の間の僅かな開き具合でピタリと当て、その球種を読んでいた。それは、1976年に引退するまで誰にも喋っていない。

「余計なことを喋ってクセを直されたら、こっちがメシの食い上げだからな」

 まさに食うか食われるかの戦いの日々であった。

※週刊ポスト2013年8月2日号

関連記事

トピックス

佐々木希と渡部建
《渡部建の多目的トイレ不倫から5年》佐々木希が乗り越えた“サレ妻と不倫夫の夫婦ゲンカ”、第2子出産を迎えた「妻としての覚悟」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
事件の“断末魔”、殴打された痕跡、部屋中に血痕…“自慢の恋人”東川千愛礼さん(19)を襲った安藤陸人容疑者の「強烈な殺意」【豊田市19歳刺殺事件】
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着を露出》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
都内の日本料理店から出てきた2人
《交際6年で初2ショット》サッカー日本代表・南野拓実、柳ゆり菜と“もはや夫婦”なカップルコーデ「結婚ブーム」で機運高まる
NEWSポストセブン
水原一平とAさん(球団公式カメラマンのジョン・スーフー氏のInstagramより)
「妻と会えない空白をギャンブルで埋めて…」激太りの水原一平が明かしていた“伴侶への想い” 誘惑の多い刑務所で自らを律する「妻との約束」
NEWSポストセブン
福井放送局時代から地元人気が高かった大谷舞風アナ(NHKの公式ホームページより)
《和久田麻由子アナが辿った“エースルート”を進む》NHK入局4年で東京に移動『おはよう日本』キャスターを務める大谷舞風アナにかかる期待
週刊ポスト
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
《豊田市19歳女性刺殺》「家族に紹介するほど自慢の彼女だったのに…」安藤陸人容疑者の祖母が30分間悲しみの激白「バイト先のスーパーで千愛礼さんと一緒だった」
NEWSポストセブン
ノーヘルで自転車を立ち漕ぎする悠仁さま
《立ち漕ぎで疾走》キャンパスで悠仁さまが“ノーヘル自転車運転” 目撃者は「すぐ後ろからSPたちが自転車で追いかける姿が新鮮でした」
週刊ポスト
無期限の活動休止を発表した国分太一
「こんなロケ弁なんて食べられない」『男子ごはん』出演の国分太一、現場スタッフに伝えた“プロ意識”…若手はヒソヒソ声で「今日の太一さんの機嫌はどう?」
NEWSポストセブン
1993年、第19代クラリオンガールを務めた立河宜子さん
《芸能界を離れて24年ぶりのインタビュー》人気番組『ワンダフル』MCの元タレント立河宜子が明かした現在の仕事、離婚を経て「1日を楽しんで生きていこう」4度の手術を乗り越えた“人生の分岐点”
NEWSポストセブン
元KAT-TUNの亀梨和也との関係でも注目される田中みな実
《亀梨和也との交際の行方は…》田中みな実(38)が美脚パンツスタイルで“高級スーパー爆買い”の昼下がり 「紙袋3袋の食材」は誰と?
NEWSポストセブン