漢字を間違えているわけではないのだから、書き順くらい少々違っていたって構わない──。そんな考えでは、思わぬ所で恥をかいてしまいかねない。
「ビジネスマンは意外と他人から手元を見られている」
そう話すのは、宮崎大学教育文化学部専任講師で『「成り立ち」「書き順」を知れば美しく書ける漢字かきかた練習帳』(草思社刊)の著者である山元宣宏氏だ。
「パソコンや携帯電話が普及し、文字を書く機会はかつてに比べて大きく減りました。とはいっても仕事やプライベートの様々な局面で、いまだに“文字を書く”という行為は重要な位置を占めています。
例えば、冠婚葬祭の際に記帳をする時や重要な契約書や書類にサインをする時……。ペンを走らせる指先に視線を感じることは少なくないでしょう。他人は口こそ出しませんが、書き順や字の美しさであなたの知性や常識力を推し量っているのです」
そもそも漢字の書き順はどのようにして定まったのか。
漢字が生まれたのは、紀元前1300年ごろといわれている。3000年の時を経て、書きやすい合理的な書き順が現代へ受け継がれてきた。
「書き順は必ずしもひとつだけとは限らない。漢字によっては複数あるものもあるし、時代によって書き順が変わっているものもある。
それでも、日本ではほとんどの書き順は昭和33年に文部省が発行した『筆順指導の手びき』に基づいて定められており、それらは一般教養として覚えておくべきものです。
正しい書き順には、字形のバランスを整えやすく、書きやすいという利点があります。歴史が生んだ合理性がそこに生きているのです」(山元氏)
※週刊ポスト2013年8月9日号