国内

医療現場は看護師の自己犠牲で成り立つブラックな世界の側面

 現在、国内には約150万人の看護師がいるが、その労働環境の実態は極めて過酷だ。

 都内にある療養型一般病院に勤務する看護師のB子さん(33才)は日勤(8時30分~17時15分)、準夜勤(16時30分~翌1時)、深夜勤(0時30分~9時)の3交替で勤務に当たる。日勤では朝から検温、入院患者の歯磨き、痰の吸引などで病棟内を駆けずり回り、19時過ぎまで残業をすることがほとんどだ。

 残業を終えていったん帰宅するも、わずか3時間ほどの仮眠をとっただけで病院にトンボ返り。そのまま深夜勤が始まる。40人の患者を看護師2人とケアワーカー1人で受け持ち、患者の体位交換やオムツ交換を引っきりなしに行う。

「ただでさえ人手不足なのに、認知症で点滴の針を自ら抜いてしまう患者さんもいて、勤務中は息つくヒマもありません。さすがに体がもたないと、多くの同僚が退職していきました」(A子さん)

 実際、看護師の退職者は年間で12万人を超える。離職率にして10%に迫るこの数字は、専門職にしては異常な高さだ。さらに、全国の看護職員2万7000人以上を対象にした『看護職員の労働実態調査』(日本医療労働組合連合会=日本医労連・2010年)によると、約8割の看護師が「仕事を辞めたい」と回答した。

 主な理由は、A子さんのような長時間労働による心身の疲弊だ。2012年度の夜勤実態調査では、看護職員の半数近くが一度に16時間に及ぶ夜勤をこなしており、3割が月9日以上夜勤があると答えた。前出の労働実態調査では「慢性疲労」を抱える看護師が7割、「健康に不安」を覚える人も6割を超えた。

 現役看護師で東京都庁職員労働組合病院支部書記長の大利英昭さんは、長時間労働とそれが引き起こす医療事故を懸念する。

「16時間もの夜勤の終了直前に、モルヒネなどの麻薬を扱うことがあります。心身ともに疲れ切って、半分眠ったような状態で作業をする。チェック体制も敷いていますが、チェックをする看護師も同じく夜勤の終盤。いつ重大な医療事故が起きてもおかしくないという強い不安でいっぱいです」

 看護師の9割以上を占める女性にとって、妊娠・出産も大きな不安材料だと、『看護崩壊』(アスキー新書)の著者で労働経済ジャーナリストの小林美希さんが言う。

「過重労働の影響で、女性看護師の3人に1人が切迫流産(流産になりかけている状態)を経験しており、そのうち1割が実際に流産しています。無事に出産をするため、30才前後で退職する場合も多い。夜勤によって満足に子育てができなくなることを心配して、出産後に復職するケースも少ないのです」

 多くの患者からの、時に理不尽な要求にも応えなければならない状況もある。現役看護師で『看護師という生き方』(ちくまプリマー新書)著者の宮子あずささんはこう率直に語る。

「患者さんから『これ、お願い』と言われれば、“どこまでもやって当たり前”なのが私たちの仕事。人数を増やしても業務も増えるばかりで追いつきません。今の医療現場は、看護師の自己犠牲で成り立つ“ブラック”な世界なんです」

※女性セブン2013年10月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン