国内

孤立無業SNEP急増「通院歴なし、アナログ人間が特徴」と識者

「スネップに希望を与えるホワイト企業はある」と玄田有史氏

 ニートとも引きこもりとも違う、新しいタイプの孤立無業者、通称「SNEP」が日本に162万人もいるという驚くべき報告が出た。名付け親はニート研究の第一人者でもある東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏だ。

「孤立無業者がこのまま増え続ければ、日本の社会的なコスト増大は計り知れない」と警告する玄田氏に、SNEPになりやすい人の特徴や、孤立無業から抜け出す手段を聞いた。

 * * *
――SNEPとは20歳以上59歳以下の未婚無業者で、家族以外は社会との接点を持たない人々と定義しています。その他、どんな特徴が挙げられるのでしょうか。

玄田:まず男性に多い点です。日本では勉強ができて、いい会社に入らなければ将来はないといったプレッシャーが女性よりも男性のほうが受けやすい。それが重荷になって、一度躓くと「もうダメだ」と考えて、社会参加を困難にさせているケースが多いのです。

 居住地域や世帯の裕福さなどによる違いはみられませんでしたが、少し意外だったのは「健康ではないが通院していない」人ほど、SNEPになりやすくなっていたことです。うつ病や自閉症といった治療・療養を一生懸命行っている無業者は、むしろ社会復帰に向けて積極的に活動をしている人々なのです。

――他人との直接的な付き合いはなくても、インターネットやメールでの交流はあるのでは?

玄田:これも調べてみて意外だったのですが、SNEPは決して“ネット中毒者”ではありません。電子メールやインターネットを通じた情報検索・収集にあまり積極的ではなく、むしろ長時間テレビを観て、睡眠時間も長い。昭和のアナログ時代の無業者と変わらない印象を持ちました。

――まだ家族がいれば会話もあるでしょうが、一人型の無業者は本当に孤独ですね。

玄田:一人型の孤立無業は、朝起きるのも遅く、部屋の掃除もあまりしない割合が高いことが分かりました。深夜も含めてめったに外出しない生活を送っている人も多いので、精神的に不安定で、趣味や関心事も少ない。もちろん結婚願望も乏しいといえます。

 また、貯金や財産が十分でないために、強い老後不安を感じていることも多いのです。いざとなったら生活保護を受けるのも致し方ないと思っていたり、すでに受給している場合も少なくありません。

――SNEP対策の第一は、「無業」から抜け出す前に「孤立」から抜け出す必要があると思います。周囲に悩みや相談を打ち明けられる人がいないとドロ沼にはまるばかりです。

玄田:私もそう思います。とにかく自分の関心あるところに行って、そこで同じ趣味の仲間と出会ったり、「こういうのが好き」「僕も好き」と会話できる関係を築くことから始めてほしいです。

 いまの時代、特に若い人の間で、人と深くかかわることを避ける風潮が強まっている気がします。そのために本当に困ったときにでも、相談したり悩みを直接打ち明けられる友達もいない。ネットで人間関係を広げたくても、誰も自分とつながってくれない。そんな自分を受け入れてくれない社会が広がっていることに、やり場のない気持ちが膨れ上がり、孤立していく現象が起きているのでしょう。

――家族型SNEPも、親は頼りにならないのでしょうか。

玄田:親を頼るというより、働かずに親に悪いなという気持ちと、親が自分のことを甘やかすからこうなっているという、なんともいえない気持ちが交錯し、親子関係はうまくいっていないケースが多いのです。

 ここは親もあえて子供を突き放すことも必要です。親が親として自分の人生を大事にして生きることは、じつは結果的にSNEPの子供の自立につながることを分かってほしいです。

――肝心の就職ですが、どうしたらうまくいきますか。

玄田:自分でできることから少しずつやっていけばいいと思います。雇用形態は正社員だろうがアルバイトだろうが構いません。

 よくSNEPは無業期間が長いために履歴書の空白を見た会社の面接官から、「何だお前、ずっと引きこもりか」みたいなことを言われてパニックになる人もいます。でも、変わろうとしている自分の勇気を正直に話せば、きっと分かってくれる企業はあります。

 世の中ブラック企業が話題になっていますが、ホワイト企業もちゃんとあります。「よし、わかった。一人前になるまで苦しいけど、頑張れるか?」って希望を与えてくれる会社がなければ、日本はとっくの昔にもっとダメになっていたはずです。

 私はSNEPという新たなレッテルを貼ろうとは毛頭思っていません。社会病理のひとつとして存在することを認めることが大事なのです。SNEPやその家族のことを他人事と考えるのではなく、みなで理解し、自分たちの問題としてその解決方法を模索していくことが孤立無業者を一人でも減らす近道なのです。

【玄田有史/げんだ・ゆうじ】
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、ハーバード大学やオックスフォード大学の客員研究員、学習院大学教授などを経て、東京大学社会科学研究所教授に就任。『ニート』(幻冬舎)、『希望のつくり方』(岩波新書)など著書多数。最新刊に『孤立無業(SNEP)』(日本経済新聞出版社)がある。

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン