西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、犬だって半沢直樹のように倍返しをするのか? について解説する。
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先月終わっちゃいましたね。あの倍返しのドラマ。過去に受けた仕打ちを根にもって倍にしてやり返す。人間ならではの行為ですわな。犬は、そんなことはやらない。
なんでそんなことが断言できるかってぇと、いつどこでなにが起きて、その因果関係はこうで相手はだれ、ってな記憶は、陳述記憶ってぇ種類の記憶。コレ、陳述ってぇぐらいですからね、「情報の伝達手段」、「思考の手段」としての言語を獲得していないとできんわけ。人間の場合、3歳ぐらいからその能力が獲得できる。だけど犬たちは何歳になっても、この情報の伝達や思考の手段としての言語は、獲得できない。
もちろん彼らは、どういった状況のとき何が起きるか、またはどういった状況の時にはどういった行動を起こすと結果はどうなるか、ってなことは記憶できる。
飼い主がリードを手にしているときのオイデと、手にしていないときのオイデでは、犬の反応は違ったりする。同じオイデでも、前者は飼い主のそばに行けばお散歩ってぇいいことが起きる、後者は爪切りなんかの嫌なことが起きる、その違いを犬は記憶できるわけ。
陳述記憶に対してこっちは非陳述記憶ってヤツ、言語能力の有無は関係ない。貴兄が自転車に乗れるようになって、その乗り方を記憶しているなんてぇのは、こっちの種類の記憶なんですわ。
まっ、かように、過去の経験から嫌なことが起きる状況を感じ取って、その嫌なことをなくそうとしてみつくことはあっても、過去の出来事を根に持ってそれを理由にみつくなんてことは、犬の場合絶対ない。まして、倍返しなんてのは、あり得んってこと。
しかしまぁ、子供の頃は、1回は1回、って同等返しでしたけどね。倍返し、10倍返し、百倍返しって、冷静に考えてみればひどくないっすかね、半沢くんて。
※週刊ポスト2013年11月1日号