緒方さんは、戦後からはるか年を経た昭和32年生まれ。子どものころ、226ppm、町で最高の水銀値が髪から検出された。

「多くの思いを胸にあふれさせながら、両陛下に直接15分の講話をお許しいただきました。水俣病は、戦後の復興をめざす政策の中で起きた不幸です。そしていまなお、終わっていません、と。皇后陛下はまばたきもされず、凝っと私を見ておられた。長い長い時を経た胸の閊(つか)えがおりました」

 侍従が時間を促す。だが、両陛下はひとりずつとの話を急がない。泣いて、声が出ない者もあった。緒方さんはこの朝、家を出る前に「もう切らんば」と思うほど電話を長く鳴らした。石牟礼道子さんと、どぎゃんでも話したかった。

 やっと電話口に出た石牟礼さんに訊いた。「体調はどぎゃんですか」

「はい、どげんか暮らしてます」
「いまから両陛下にお目にかかってきます。水俣市民の思いを背負ってお会いしてきます」

 石牟礼さんはこれより3か月ほど前に皇后陛下にお目にかかる機会があった。

「皇后さまは水俣に深い思いを寄せられてますから、がんばってきてくださいませ」緒方氏に伝える。

※週刊ポスト2013年12月13日号

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