ライフ

「田中」「山本」は西日本代表する名字 関ヶ原が分け目に

 日本人は名字で呼び合うことが多いが、案外知らないことも多い。名字研究の第一人者・森岡浩氏と考えてみた。日本では国勢調査の際に名字の数をカウントしないため、公式な名字ランキングは存在しない。そのため存在するものはいずれもサンプル調査だ。

「現在、主流となっているのは電話帳による調査です。3000万件前後のデータが収録され、資料として大変価値が高い。ただ、近年は携帯電話の普及で電話帳の掲載数が減少し、また、個人が特定される珍しい名字ほど掲載を避ける傾向があるため、私は1990年代前半あたりの電話帳を使用してランキングを作成しました」(森岡氏)

 日本では様々なものに“東西での違い”があるが、これは名字も同じ。東日本と西日本とでは、ランキング上位がまったく違う。

 都道府県別の名字ランキングを見ると、東日本では「佐藤」と「鈴木」が多く、他にも「斎藤」や「加藤」のように下に“藤”がつく名字が上位にランクインする。一方、西日本では、「山本」と「田中」が代表的な名字となり、これに「中村」「吉田」「松本」などが続く。

「東西の歴史の長さと人口密度の違いが、ランキングに影響を及ぼしている。西日本のほうが歴史が長く、人も多く住み、稲作が盛んでした。そのため家と家を区別するために“山”や“田”などの地形由来の名字が増えたのです。

 東日本は、歴史も浅く、中世以前の人口密度が低い。家と家を区別する必要がないため、名字の種類も少なく、特定の名字に集中している傾向があります」(森岡氏)

 名字における東日本と西日本の分岐点はどこなのか。

「人の流れがないと名字も動かない。山間部や半島に珍しい名字が多いのはそのためで、交通の難所が分岐点になると考えられます」(森岡氏)

 日本海側でいえば、新潟と富山の県境に横たわる飛騨山脈。ここには今では鉄道や高速道路のトンネルが貫通しているが、江戸時代には県境付近にある「親不知子不知(おやしらずこしらず)」が、断崖絶壁で波も激しい交通の難所となっていた。

 太平洋側は古代から人の往来が激しく、交通の難所も少ないためか、名字も緩やかに変化している。

「静岡、愛知、岐阜、三重は『伊藤』『加藤』などの藤原一族の末裔が多い。滋賀、奈良は『田中』『山本』といった西日本を代表する名字が多いが、三重と岐阜では東西両方の名前が混在している。内陸部では岐阜の関ヶ原、太平洋側は三重中部の雲出川付近に東西の境目があります」(森岡氏)

 天下分け目の関ヶ原は「名字の分け目」でもあったのだ。

※週刊ポスト2014年1月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
リモートワークや打合せに使われることもあるカラオケボックス(写真提供/イメージマート)
《警視庁記者クラブの記者がカラオケボックスで乱痴気騒ぎ》個室内で「行為」に及ぶ人たちの実態 従業員の嘆き「珍しくない話」「注意に行くことになってるけど、仕事とはいえ嫌。逆ギレされることもある」 
NEWSポストセブン
「最長片道切符の旅」を達成した伊藤桃さん
「西国分寺から立川…2駅の移動に7時間半」11000kmを“一筆書き”した鉄旅タレント・伊藤桃が語る「過酷すぎるルート」と「撮り鉄」への本音
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱親方と白鵬氏
旧宮城野部屋力士の一斉改名で角界に波紋 白鵬氏の「鵬」が弟子たちの四股名から消え、「部屋再興がなくなった」「再興できても炎鵬がゼロからのスタートか」の声
NEWSポストセブン
環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(22)
《不敵な笑みでテロ組織のデモに参加》“環境少女グレタ・トゥンベリさん”の過激化が止まらずイギリスで逮捕「イスラエルに拿捕され、ギリシャに強制送還されたことも」
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン