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東北大学が人工胎盤装置開発 極低出生体重児死亡率改善期待

 日経新聞が1月4日に掲載した記事が、不妊治療の患者並びに医師たちの間で反響を呼んでいる。リアル社会の進化を伝える大型連載「リアルの逆襲」の3回目。「お母さんは水槽」と題されたその記事は、こう始まる。

〈青いプラスチックのおけに張られたセ氏39度の温かい「羊水」。中にはヒツジの胎児が漂う。へその緒の代わりに管をつなぎ、流れる血液に酸素を送り込む〉

 母親の胎内ではなく、人工胎盤によって育てられるヒツジの胎児。直径8ミリのチューブをヒツジのさい帯動脈・静脈(へその緒)に通し、そこに小型の人工肺を接続する。ヒツジの心臓の動きだけで血液が循環し、酸素が全身に行き渡る仕組みだという。

 この装置を実現させたのは、東北大学の研究チームだ。出産予定の3~4週間前に母親から帝王切開で胎児を取り出し、人工胎盤装置に入れて、72時間生存させることに成功。

 仮に人間向けに実用化されれば、早産などで心肺機能が未熟な状態で生まれた胎児を、胎内に近い状態で成育させることが可能になるわけだ。厚労省によれば、2003~2007年に出生した出生体重1500グラム未満の「極低出生体重児」は1万6001人。そのうち死亡率は9.7%に達する。実験を成功させた東北大学病院周産母子センター副部長の松田直准教授がいう。

「500グラム以下で産まれた赤ちゃんが、もっと楽に集中治療を受けられるようにという思いで研究を行なっている。人工胎盤装置の歴史は1960年代から。私たちが研究を始めてから20年間かかってここまできた」

 年内にも人間での臨床試験を予定し、「あと数年で、人間にも応用できる」(松田氏)ようになるという。

 新生児医療の進歩には驚かされるばかりで、それによって小さな命が助かるのなら喜ばしい限りだ。だが、一方ではこんな指摘もある。

「この技術を突き詰めていけば、女性は自分の体をまったく介さずに子供を産むことが可能になる。さらにはセックスや妊娠もなしに子供だけを手に入れることも実現するのではないか」(東大医科学研究所・上昌弘特任教授)

 既に京大の研究チームでは、マウスのiPS細胞を卵子や精子のもととなる始原生殖細胞に変化させることに成功している。

「皮膚の細胞からiPS細胞を作り出し、それを試験管の中で卵子や精子に育てることも究極的には可能になるだろう」と研究チームの斎藤通紀教授は冷静に話す。そうして作られた卵子と精子を試験管の中で受精させ、それを先ほどの人工胎盤で育てるということも将来的には行なえるかもしれない。

 人間への応用はまだまだ先の話である。加えて技術面をクリアしたとしても、母胎を介さない「試験管ベイビー」の実現には、倫理面の議論や法整備が欠かせない。それでも「赤ちゃんを切に望む」アラフォー女子の願望を刺激するには十分だったようだ。

※週刊ポスト2014年1月24日号

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