「空気を読めない」ことを揶揄するKYという言葉が2000年代の終わりに流行ったのも象徴的でした。学校でも職場でも空気を読むことが求められている。「正解」に従えということです。一度大勢が決まると、それに反対しにくい空気が生まれる。
しかし、「正解」や「正論」を追い求めるだけでは、新しい考えや力がいつまでも出てこない。何より困難な状況に陥った時、そこから這い上がるのがより難しくなってしまいます。
東京五輪招致のプレゼンターとして感動的なスピーチをしたパラリンピック走り幅跳びの佐藤真海選手は19歳の時に骨肉腫を発症して右足の膝から下を失い、人生が一転しました。でも佐藤選手はこう捉え直したのです。
「何よりも私にとって大切なのは、私が持っているものであって、私が失ったものではない」
舘野泉さんというピアニストがいます。2002年、彼は脳梗塞で倒れ、一命は取り留めましたが、右半身に麻痺が残り右手が使えなくなってしまった。ピアニストとしては致命的です。舘野さんが見つけた「別解」は、驚くものでした。
「だったら左手だけで弾けばいい」
今では、リサイタルを開けばすぐにチケットが売り切れるほどの人気ぶりです。人生、×に近づいたときほど、人生を変える△がすぐ横にある彼らの生き様は、そう教えてくれています。
※SAPIO2014年2月号