通常、製品化の際は、「ターゲットユーザー」を想定する。たとえば、「40歳以上の写真愛好家の男性」などといったものだ。ところが後藤の“想定”は、「ユーザーとしてスポーツカメラマンは想定しない」という、型破りなものだった。
「高速連写でバシバシ撮るカメラではなく、1枚1枚シャッターを切る楽しみが味わえるカメラにしたい、という意思表示でした」
しかし、これで終わりではなかった。後藤には製品化に際してどうしても譲れないポイントがもう1点あったのだ。
「弊社のデジカメには必ず『Nikon』という文字が入っているのですが、これは会社のロゴと同じ斜体です。でも、直線的なフォルムのカメラには、昔使っていた直立した書体のほうが絶対似合う。だから会社と粘り強く交渉して、『特例』として認めてもらいました」
その後、東日本大震災、タイの洪水禍など幾多の困難を乗り越え、2013年11月、“ニコンらしいデジカメ”『Df』は発売された。
後藤のリサーチ通り、「こんなデジカメが欲しかった!」という写真ファンが殺到。生産が追い付かず、発売後4か月を過ぎても店頭では品薄が続いている。
(文中敬称略)
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2014年3月21日号