従来のリーダーがトップダウン型なら、彼らが志向するのは極端な〈ボトムアップ〉型。その旗振り役に抜擢されたのがフルスイングの人・山田であり、四の五の言わない彼を突破口に仕事の進め方自体を変えることが、部長の真の目的だったのだ。琴平は言う。
〈頭でっかちな計画を貧弱な行動力で中途半端に現場の者に押しつけ、チェックの段階になると俄然張り切る面々が現れ代案なき批判の嵐、そして結局何もしないという究極の改善案に着地する。これが今の大翔製菓のPDCAサイクルだ〉〈PLAN、DO、CHECK、ACT〉〈今必要なのは“DO”だ。ゆるキャラ山田は大翔製菓の“DO”になる〉
反琴平派の横槍も入る中、プロジェクトの巻き返しも、山田が抱く恋心も、なかなか逆転ホームランとはいかない。それでも半径5メートルから一つ一つ、彼らは世界を変えようとしていた。
「とりあえずフルスイングしないことには打球はどこにも飛ばないわけで、その時々の選択や縁を大事にして、全力であたっていれば、たとえ結果は悪くても後悔しない気がするんですね。
地球上に一度も会わない人間の方がずっと多い中で、一時でも一緒に働くなんて物凄い縁だと思うんですよ。そういう縁や選択が何十乗にも掛け算された先に今がある感覚を僕は小説化できたらいいなあと思っていて、『あの時ああしておけば』ではなく『あの時があるから今がある』と思える小説を書いていきたいんです。端的に言うと!(笑い)」
そんな願望を具現化した「Mr正論」山田の存在感は、ともすれば世知辛い現実にあってファンタジックにも映る。が、安藤氏は本書を、本気で現実と切り結ぶためのアプローチとして書く。そのフルスイングっぷりも、縁を信じ、人を信じる彼の半径5メートル改革の一環なのだろう。
【著者プロフィール】
安藤祐介(あんどう・ゆうすけ):1977年福岡県生まれ。早稲田大学政経学部在学中はバンドに熱中し「バンドコンテストで決勝に残ったりもしたので、僕の場合、ろくに就活しなかった自分が悪い。結局夢破れ、慌てて就職しました」。学習塾、IT企業等を経て2006年より公務員。その傍ら2007年『被取締役新入社員』でTBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞し作家デビュー。著書は他に『営業零課接待班』『1000ヘクトパスカルの主人公』等。170cm、61kg、A型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年4月4・11日号