国内

汚染水 ALPS除染せずタンク貯蔵の方が危険だとわかっていた

 事故から3年が過ぎたが、福島第一原発の現場では深刻さが増している。汚染水対策や廃炉作業に向けた熟練作業員がいなくなっているなど、人と設備のさらなる問題を、福島第一原発内部の取材をしたジャーナリスト・藤吉雅春氏が明らかにする。

 * * *
 福島第一原発の中に設置された『不適合管理委員会』が毎週火曜日に不適合事例の検証を行い、それを5段階にランク分けする。1か月で審議される不適合事例は、なんと600件以上。審議後、現場で対策を考えて、再度書類を提出する。不適合事例を見つけては検証を繰り返す負担から、今度はもぐら叩きのように処理しても処理してもトラブルに終わりが見えないでいる。

 事故前から働く技術者は図面を広げながら、やりきれない表情でこう言った。

「国も東電も重要なことを決断できていないのが原因だ」

 その典型例が「汚染水の漏れ」だと言う。

「汚染水を処理するALPS(多核種除去装置)は、2012年秋から稼働できる状態にあり、何度も国に稼働の許可をお願いしていたが、わずかな漏洩などの理由で動かせなかった。しかし、ALPSで除染せずにタンクに貯蔵するほうがはるかに危険なのはわかっていた」(前出の技術者)

 現在、ALPSは時々起こす故障が報道されるが、ALPSより優れた除去方法は他にない。タンクから漏れる事態も当初からわかっていた。

「初期の高濃度汚染水を貯めているタンクのほとんどは、溶接すらしていない。タンク1基につき、500個のボルトで鉄板をつなぎ合わせたものです。防水加工もないし、放射線を防ぐ加工もない。だから、タンクの底にある繋ぎ目から漏れるのは当たり前なんです」(前出の技術者)

 そこでこの夏から実験段階に入ろうとしているタンクの漏れ防止策がある。フランスの原子力メーカー「アレバ」社と協力して、初期段階につくられた漏れのあるタンク100基の屋根から、風呂場のタイルにあるような防水シールを特殊なパイプで注入する予定だ。

 ただし、「タンクの屋根にのぼる作業員は放射線被曝を考えると、短時間の作業しかできない」(日本のメーカー関係者)という。その価格は1基あたり3000万円。100基で30億円だ。すでに3年間の作業で1兆円を使っていることを考えると、大きな額ではない。しかし、問題を後回ししたツケとしては巨額だし、30~40年後の廃炉までこんな場当たり的なことが繰り返されるのか。

 事故前、汚染された水は、基準値以下にして海に放流していた。今も基準値以下に下げることはできる。しかし、漁業関係者は風評被害と、基準値以上の汚染水が流れ出ることを恐れる。そのため、「除染したタンクの水の放出については、まだ地元と交渉していません」(東電広報担当者)という。

 原発稼働時に、これだけ大変なものを抱え込む覚悟が、本当に私たちにあったのだろうか。白い防護服姿の作業員たちの“敗戦処理”を見ながら、改めてそう思うのだった。

※女性セブン2014年4月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

バラエティー番組『孝太郎&ちさ子 プラチナファミリー 華麗なる一家をのぞき見』
コシノ三姉妹や石原4兄弟にも密着…テレ朝『プラチナファミリー』人気背景を山田美保子さんが分析「マダム世代の大好物をワンプレートにしたかのよう」
女性セブン
“アンチ”岩田さんが語る「大谷選手の最大の魅力」とは(Xより)
《“大谷翔平アンチ”が振り返る今シーズン》「日本人投手には贔屓しろよ!と…」“HR数×1kmマラソン”岩田ゆうたさん、合計2113km走覇で決断した「とんでもない新ルール」
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン