「しりあがり寿」の存在は、2002年から連載がスタートした朝日新聞夕刊の四コママンガ『地球防衛家のヒトビト』で広く知られている。宮藤官九郎氏の映画監督デビュー作の原作『真夜中の弥次さん喜多さん』でファンになった人も多いだろう。私は、人間にとっての他者である動物を題材にした短編集『ドウブツマンガ』が大好きだ。
でも、しりあがり氏の魅力は、それらの優れた作品単体では語れない。硬派な時事ネタをどんなに扱っても、知識人気取りの作風になんか絶対にならない柔らかさ。オーソドックスな安定感のある笑いを提供する一方で、シュールな実験作も発表し続ける意欲。そんなこんなの仕事ぶりトータルがカッコいいマンガ家だと思うのだ。
しりあがり寿氏には、ですます調で肩の凝らない、けれども本質的なことをストレートに綴るエッセイストとしての魅力もある。
2006年に『表現したい人のためのマンガ入門』という新書を出していて、これがいい。マンガ家志願者はもちろんのこと、何かの表現活動を仕事にしたい人の参考になる。また、自分の作品をどう「商品」として売るか、「しりあがり寿」というクリエイターをいかにマネージメントするか、という視点の自己分析もていねいになされており、企業勤めで開発部門や人事部門で働いている人にも役立つと思う。
しりあがり氏は、美大を出て、キリンビールに就職。サラリーマンとマンガ家との二足のワラジ生活を13年間続けていたのだが、独立の際に仕事の向き合い方をずいぶん考えたそうである。そして、このような結論に行きついた。
<その結果たどりついたのは、「敷居の低い人」になって仕事は「何でも受ける」ということでした。きっと何でも受けていれば、自分がダメな分野の仕事はこなくなって、自然に仕事の幅が収斂してゆくだろう、逆にいつまでもいろんな仕事がくればそれはそれでいいじゃないか、と思うようになりました>
「なるほど!」と膝を打つ人も多いのではないだろうか。タイトルからは分かりづらいが、実はこの本、「やりたいことがわからない」という人にとってもお薦めの穴場的自己啓発書でもあるのだ。調べてみたら、まだ新品の本が流通していた。これは買いだ!
という情報を載せさせてもらって、受章のお祝いとさせていただきたい。