勝負から離れたところで感動を覚えることもある。
たとえば、2対14と大敗した今春の対立教第2戦。1対6と大きくリードされて迎えた7回表の東大の攻撃。ランナーを3塁に置いたチャンスに生田優人という3年生が代打で登場した。
実は彼は六大学で試合に出るのが初めてだっただけでなく、ベンチ入りもその試合が初だった。東大応援席のファンの多くはそのことを知っていた。だから、その生田がタイムリーヒットを放ったとき、東大が得点したことだけでなく、生田が起こした奇跡にも大きな拍手を送った。
「以前、なんと5浪もして東大に入ったピッチャーがいました。そして、コツコツ練習し、4年秋のシーズンに初めてベンチ入りし、ある試合で1イニングだけ登板して0点に抑えました。
その彼がベンチに戻ってくるとき、まるで優勝したみたいに東大の選手たちがベンチから『ウワーッ』と飛び出して祝福したんです。そのシーンを見ていて、大きな勇気をもらった気分になりました」(前出・冷泉氏)
冷泉氏は、これまで「東大を応援するのはもうやめよう」と思ったことが何度もあるという。だが、人生にはうまくいかないこともある。しかし、それでも一生懸命生きていく──東大野球部は無言のうちにそんなことを語っているように見える。だから応援はやめられない。
※週刊ポスト2014年5月30日号