アイロボット社のミッションは実に明快。「3D」の言葉に集約される。
「ダル、ダーティ、デンジャラス、つまり退屈で汚くて危険な作業を人の代わりに遂行するロボット。それが開発コンセプトであり、思想です」
オモチャ家電などと揶揄されても、揺るぎなくブレずに10年間、着実に販売を続けてきたその理由が明快なコンセプトの中に見えた。
だが池田氏の会社は日本総代理店、つまり日本の販売担当。まるでルンバ開発チームのように熱く雄弁に語るのはなぜか。
「ルンバは50か国以上で販売していますが、とにかく日本のユーザーは世界一細かくて、要求が多い。そうした声は宝の山なんです」
苦情や不満も、別の角度から読みこめば新機能のアイディアそのもの、と池田氏。
「だから私たちは自社でカスタマーセンターを立ち上げ、日本のユーザーの声を吸い上げて、米国での開発サイクルの中にその情報を反映させるシステムを作ったのです」
日本の家は狭くて、家具や物が多い。しかも靴を脱ぐ生活だから床に直接触れる。ほこりや髪の毛など細かくて軽いゴミが問題となる。床は畳や絨毯、フローリングと多種多様。土壁や漆喰(しっくい)は傷がつきやすい……いわば「最も掃除しにくい」環境の中で「徹底した清潔さ」を求めるのが日本人だ。
「例えば綿ゴミがきれいにとれていないという苦情に対して、舞い上がるようなゴミを赤外線で捉えるセンサーを新機能として付加しました。ゴムのバンパーも、高性能フィルターも、日本人ユーザーの要求に応えて加えた機能です」
ルンバは日本家屋に特有の問題点を解決することで能力を高めていった。それは、ルンバが成長するロボットである証だった。「世界標準」の機能はこうして作り上げられていった。
※SAPIO2014年6月号