ライフ

関西人 何にでも卵を落としてまろやかでコク深い味わい演出

関東では「天玉」、関西では「スタミナ」

 卵消費量日本一の関西。お好み焼、すき焼きはもちろん、うどんにも関西人を卵を落とすのが大好きだ。関西人の卵好きの理由について、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 なぜ関西人は何にでも卵を落とすのか。創業100年以上となる大阪の「自由軒」の名物カレーは、ルウとごはんをごちゃまぜにしたところに生卵を落とす。東京の立ち食いそば屋で天ぷらと卵を乗せると「天玉そば」「天玉うどん」になるが、大阪ではさらに「スタミナうどん(そば)」と独特の呼称で呼ぶ店もある。赤だしの味噌汁にも卵を落とす。

「落とす」だけではない。「たまごサンド」にしても、関西以外の地域では食パン1枚あたりに卵を1~1.5個程度、それもゆでたまごを細かく刻んだものとマヨネーズを和えたディップをはさむが、関西では卵3つ分を厚焼きにしたオムレツをはさむ店が多い。「お弁当にニヌキ入れといたで」「わーい!」という朝の光景も関西ならではだろう。ちなみに「ニヌキ」とはゆでたまごのことだ。

 実際こうした関西人の卵好きは数字にも現れている。例えば、最新となる2013年の総務省家計調査(全世帯)で世帯あたりの卵への支出金額の全国平均は6689円。ところが、近畿圏だけ7471円と飛び抜けて高い。都道府県別で見ても、奈良、和歌山、京都と近畿圏がベスト3を独占している。

 さらに、都道府県別の鶏卵入荷量を見てみると、この3年、大阪が全国トップの座を揺るがぬものにしている。全国での鶏卵の総入荷量は244万9087トン。実にそのうち10.1%、1割以上が大阪に出荷されている。人口で1.5倍、飲食店の数でも東京のほうが多いにもかかわらず、大阪の入荷量が年間約2万トンも多い。この事実から、近畿圏全体での需要の多さと、近畿圏における鶏卵文化の定着度が伺える。

 ではなぜ、関西圏でこれほど卵が受け入れられたのか。考えられる大きな理由はやはり「味覚」だ。よく「キレの関東、コクの関西」というように、その地域に住まう人が味に対して求めるものは味覚によって異なる。生卵はまろやかでコク深い味わいを演出しやすい。「コク」と言えば関西人にとって大切な「昆布だし」に含まれる「グルタミン酸」も重要な役割を果たす成分だが、グルタミン酸は卵にも豊富に含まれている。

 明治生まれの随筆家、古川緑波も関西人は昔から卵好きだったというエピソードをエッセイに書き残している。ちなみに古川緑波は東京・麹町の生まれだ。

「その頃は、生卵なんか附けて食いませんでした。生卵を附けて食うのは、あれは(今では、もう東京でも何処でも、やっていますが)関西から渡ってきた、食い方で、(東京の老舗である)三河屋は、ワリシタ自慢。生卵など出さなかった。(後年は、出した)」(「牛鍋からすき焼きへ」 『ロッパの悲食記』=ちくま書房より)

 当時と比較すると、情報の流通速度は比べ物にならないほど上がり、文化はまたたく間に消費されるようになった。各地の食文化もますます入り混じっていく。だがそんななかでも決して消費されず、混ざり切らないコシの強い文化がある。卵は暮らしのなかにある食べ物だ。

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト