原発事故は、航空機や新幹線事故とは被害の規模が違うというならば、犠牲者数や被災地域の広さによって差し止めるか否かを判断していることになる。その線引きをするのが裁判官の役割だというのだろうか。
そもそも司法府は立法府が作った法律に照らし、その行為が合法か違法かを判定する機関である。ところが、今回の福井地裁の判決は憲法の人格権を持ち出してはいるものの、具体的な法律に照らしていない。日本の法律のどの部分に基づいて運転差し止めを命じたのかが明確ではなく、私は司法の越権行為だと思う。
たとえば、判決は「1260ガルを超える地震では冷却システムが崩壊し、メルトダウンに結びつくことは被告(関電)も認めている。(中略)大飯原発に1260ガルを超える地震が来ないとの科学的な根拠に基づく想定は本来的に不可能だ」と述べている。「1260ガルを超える地震が起きても100%安全な原発でなければ運転してはならない」と定めた法律があるならわかるが、そんな法律はどこにもないのである。
これほど不合理な判決に対して、なぜ行政府や立法府が黙っているのか、私は不思議でならない。
また、大手新聞各社の社説は賛否が真っ二つに割れたが、判決を批判した読売、日経、産経に対し、朝日、毎日、東京の3紙がそれぞれ「判決『無視』は許されぬ」「なし崩し再稼働に警告」「国民の命を守る判決だ」と判決を称賛した理由もさっぱりわからない。
※週刊ポスト2014年7月4日号