近年では、アルコールを無理強いする「アルハラ」(アルコールハラスメント)への理解も進んでいるが、サラリーマンであれば、飲み会の席で飲みたくない酒を飲むような場面は珍しくないだろう。接待で酒を飲みすぎて足首を骨折してしまった場合、労災は適用されるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
接待の場で取引先の部長から、しつこくお酒を強要され杯を重ねることに。アルコールに強くない私は部長を見送る際、酔いのためにうっかりお店の階段を踏み外し、足首を骨折してしまいました。接待も業務のひとつだと思っているのですが、こういう場合、労災は適用されないのでしょうか。
【回答】
労災保険の給付は、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(「業務災害」)に対してなされます。「業務災害」となるための要件である「業務上」とは、事業者の業務を遂行中であること(「業務遂行性」)が前提となり、さらに事故がその遂行する業務に内在する、あるいはこれにともなう危険が現実化したものであること(「業務起因性」)が必要です。
業務遂行性は、会社の管理や支配下にある場合に認められます。就業時間内に職場で起きれば、まず問題ありません。職場外での会合や懇親会への出席は、自由参加だと会社の支配下にあるとはいえず業務遂行性は認められませんが、時間外に外部でされる取引先の接待でも、上司の業務命令であれば、業務遂行性があることは間違いありません。
業務命令が無くても、得意先との取引を円滑にするうえで、部長との懇親を深めることが必要であり、あなたの職責上接待することが期待されており、接待費用も会社持ちであるような場合には、仕事の延長であって業務と密接な関係があるので、業務遂行性が認められると思います。
次に飲酒転倒が、業務に起因したといえるかですが、接待に飲酒をともなうことは常識であり、飲酒をすれば酔うのが当たり前で、酔えば転倒は起きがちな危険であるといえます。出張中の社員が、旅館で同僚と飲酒したのち、就寝前にトイレに行き、階段で転んで頭を打って死亡した事件で、一審は出張中であることから、業務遂行性を認めたものの、私的飲酒として業務起因性を否定しました。
しかし控訴審は、業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為、ないしは業務遂行から逸脱した行為とはいえないとして、業務起因性を認めています。そこで、ご質問のケースでも業務起因性があると、私は思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年7月25日・8月1日号