彼の話を聞いて、ブラック企業にありがちな人材育成法との違いを感じました。ブラック企業といえば、高いノルマ、劣悪な労働環境などをイメージする方も多いと思いますが、さらには「行動モデル」の設定と徹底ということが一つのパターンとして見受けられます。つまり、「1日必ず◯件の営業訪問をする」「この商品を必ず進める」「このトークを使う」ということがルールとして決められていて、その通りにやることが求められるわけです。
これはブラック企業に限りません。組織的な営業力を高めるために、行動モデルの設定を行っている企業は存在します。営業の勝ちパターンの一つであり、短期で、スキルの低い人でも成果が出やすくするためには、適した方法の一つだとは言えます。
ただ、このやり方は、環境の変化があった場合は、すぐに通じなくなること、個々人が自律的に考えて行動しなくなる可能性があることが難点です。
日本の格闘技の世界でも、ブラジルのやり方、アメリカのやり方など、流行ったものにすぐ染まってしまうことがあるとか。たしかに強いと言われている人たちのやり方は学ぶべきですが、それ一色になってしまっては、変化に対応できません。
自分のコピーを作ろうとして部下も自分も疲れてしまうという、新任の管理職がよくやりがちな失敗があります。機会を与える、様々な考え方があることを伝える、個々人の良いところを伸ばす、型にとらわれない。中井メソッドは、一般の人が抱く、格闘技のイメージとは違うかもしれませんが、考えて行動できる人を育てるという意味で、有効だと感じた次第です。
この本には、「指導者」という言葉が頻出します。会社ではあまり使わない言葉です。ただ、部下や後輩を育てることも仕事の一つ。自分は指導する立場なのだ、しかも型にはめるのだけが指導ではないのだということに気づくべきです。
大学の非常勤講師を始めて5年目に突入したのにも関わらず、未だに教え方について模索中の私にとっても大変に参考になる本でした。
部下・後輩の育成に悩んでいる皆さん、管理職のマニュアル本もいいですが、格闘技のやり方からも学んでみましょう。