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ブラック企業と伝説の格闘家 人材育成法の違いを識者が分析

 格闘技界のレジェンドが自伝を発表した。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏は「若手社員のマネジメントにも使える」と勧める。

 * * *
 『希望の格闘技』(イースト・プレス)という本を読みました。著者は、格闘技界のレジェンド中井祐樹氏です。勝負哲学の本なのですが、これは部下・後輩のマネジメント、育成に悩むビジネスパーソン向けの本だと思いました。ポイントをお伝えしましょう。

 まず、中井祐樹氏についてご紹介しましょう。北海道出身の彼は高校時代にレスリングを、北海道大学で高専柔道の流れをくむ七帝柔道を学びます。七帝柔道は、やや端折って言うならば、寝技中心の柔道です。この競技で活躍後、大学を中退して上京。初代タイガーマスク、佐山聡氏がつくった総合格闘技、シューティング(現:修斗)に入門し、活躍。ウェルター級チャンピオンになりました。

 中井祐樹氏の試合と言えば、1995年4月20日に日本武道館で開催されたバーリトゥードジャパンオープンというトーナメントでの試合が格闘技ファンの間で語り継がれています。当時は日本の総合格闘技の黎明期とも言える時代で、ルール面などでの模索が続いていました。無差別級のトーナメントではありましたが、1回戦で身長差が約30センチ、体重差が30キロ以上ある、オランダの喧嘩屋ジェラルド・ゴルドーと対戦。

 ゴルドー選手はサミング(指を眼に入れる行為)、噛みつきなどの反則をする選手として知られていましたが、この日もサミングを連発。明らかに体格差がある中、踏みつけられ、殴られましたが、足の関節をきめ、勝利しました。この日、当時学生だった私も観戦していたのですが、諦めずに立ち向かう姿に感動しました。決勝まで進み、400戦無敗の男として知られる、ヒクソン・グレイシーと対戦しています。

 しかし、この日の試合がきっかけで、右目を失明。その後はブラジリアン柔術に転向し、アメリカ、ブラジルで実績を残しました。現在は、日本ブラジリアン柔術連盟会長、格闘技ジムであるパラエストラ東京の代表を務めています。

 私が格闘技ファンであるが故に、ついつい前置きが長くなってしまいましたが、まさに格闘技界のレジェンドです。格闘技イベントPRIDEが始まったのが1997年ですが、その前の礎をつくった一人であり、世界的に活躍する青木真也選手を始め、たくさんの後進を育成しています。

『希望の格闘技』は、中井祐樹氏の自伝であり、勝負哲学の本であり、もちろん格闘技ファンにはたまらないのですが、むしろ部下・後輩を抱える会社員向けの本だと思いました。なぜならば、世界に通用するプロを育成した指導者のメソッドとマインドが、惜しげも無く公開されているからです。

 先日、中井氏と対談するという貴重な機会を頂いたのですが、そのときにも、この本でも感じたのは、「次の世代は、自分たちより強くなって欲しい」という彼の想いです。そのためにも、自分のコピーを作らないのです。

 格闘技というと、体育会の空気、厳しい上下関係という印象を抱く方もいるでしょう。さらに、特定の型があり、ひたすらそれを叩き込むという印象もあるでしょう。中井氏ももちろん、礼儀は大事にしますし、ある型を学ぶことを否定しませんが、彼は、後進を自分の色に染めるタイプの指導はしません。様々な格闘技のメソッドがあることを伝えます。「こうやれ」と押し付けるのではなく、「こういう考え方もある」という教え方をします。これを自分になりに消化し、考えて行動できるようになることを重視します。また、チャレンジする機会を与え続けます。

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