今年、新しくなった高校歴史教科書の「韓国史」でも、計8種類の中でただ1冊が「国交正常化過程で確保した対日請求権資金や借款は経済建設に大きな力となった」とたった1行だけ記述しているに過ぎない。
49年目にして初めての記述だが、この1冊が左派や野党陣営から「独裁・日帝美化」と非難、糾弾された保守派の「教学社」版である。しかもこの教科書が実際に採択されたのは全国でただ1校だけだった。
他の教科書を見ると、政府間の「日韓歴史共同委員会」で韓国側の中心になった鄭在貞ソウル市立大教授(前・東北アジア歴史財団理事長)が執筆責任者の「志学社」版は、日韓国交正常化について「両国が相互発展と地域平和のための同伴者として協調できる契機を作ったという点で重要な意義をもつ」といかにももって回った記述をしている。
「日韓国交正常化がその後の韓国の発展にプラスした」という”事実”を正直に言わないのだ。
教科書には国交正常化初期の日韓経済協力のシンボルである「浦項総合製鉄(POSCO)」や「京釜高速道路」の写真が掲載されている。「漢江の奇跡」と言われた韓国の発展の姿として紹介しながら、日本の支援、協力の事実は伏せている。
韓国では教育もマスコミも「日帝時代」といわれる35年間の日本統治時代のことは、これでもかこれでもかとマイナスばかり悪しざまに語ってきた。一方で、国際的にも事実として常識になっている日韓国交正常化の韓国に対するプラスの側面にはまったく知らん顔だ。こんな「歴史認識の歪曲」をそのままにして「新しい未来に向けての出発」は難しい。
日本の”対韓歴史戦争”はいわば〝大過去〟の慰安婦問題への反撃にとどまっているわけにはいかない。来年は国交正常化50年史という”近過去”の歪曲にも大いに反論しなければならない。
文■黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
※SAPIO2014年11月号