大櫛:ただ、この問題よりも恐ろしいのは、誤った基準によって健康な人が飲む必要のない薬を飲まされているということです。日本では国がやるべき診察のガイドラインを製薬企業という利益集団が決めてしまっている。これは欧米では10年以上前に問題視されて改善されたことです。
たとえば、降圧剤のセールスのために世界各国で血圧の基準を下げてきた「高血圧マフィア」と呼ばれる集団が有名です。彼らはまず1993年にアメリカでJNC5という政府の委員会に働きかけて血圧の基準を厳しくし、1999年にはWHO(世界保健機関)の基準も厳しくすることに成功します。
後にこれは良識のある医師たちから批判されて元に戻るのですが、日本高血圧学会はこの「高血圧マフィア」がつくった基準を今も正しいと主張しているわけです。
上:その件を私は詳しくは知りませんが、日本の高血圧学会に関して言えば、あの人たちにそこまでの大きな力はないと思っています。たとえば、ノバルティスファーマ社の降圧剤ディオバンをめぐる論文不正事件のなかで、高血圧学会が裏で糸を引いているような陰謀論が囁かれましたが、ノ社による降圧剤セールスのための「営業ツール」として利用されたに過ぎません。臨床学会というのはなにかあったら訴えられる現場の医師と違って、安全な場所で提言できる。だからこそ製薬企業に利用されやすいのです。
※SAPIO2014年11月号