自覚症状が出ないなら、「がんもどき」は放置しても死しにはしないから治療は必要ない。一方、本物のがんの場合、治療したところで、すでに他臓器に転移しているからいずれ再発する。治療を繰り返しても、治ることはない。それどころか治療によって命を縮める可能性もある、と近藤氏はいう。
「手術による術死や合併症死は少なくありませんし、臓器を切除すれば術後のクオリティ・オブ・ライフは低下します。痛みがないなら原則、放置したほうが、クオリティ・オブ・ライフを保ちながら穏やかに生きられる。私はそういう患者さんをたくさん見てきました」(近藤氏)
自分や家族が、いつがんになるかわからない。健康なうちに、治療に関する正確な知識を得ておきたいものだが、はたして「がんもどき理論」は世紀の大発見か、それとも間違いだらけのがん理論か。
いずれにせよ、納得のうえ、後悔のない治療を選びたい。
【プロフィール】
近藤誠(こんどう・まこと):1948年生まれ。慶應義塾大学医学部放射線科講師を2014年3月に定年退職。「乳房温存療法」のパイオニアとして知られ、安易な手術、抗がん剤治療を批判。現在「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。11月4日に自身の集大成となる最新刊『がんより怖いがん治療』(小学館刊)を上梓。
撮影■小野庄一