「ひとところにいるのが嫌なんですよ。縛られるのがね。低いところしか飛べない鳥だとしても、それなりにどこかに行きたいというのがあるんです。
ただ、理論家の監督とやるのは大変でしたね。ブレーンの人たちと部屋に集まって、台本を読むところから始まるんです。
私は歌舞伎の出だから、論理的じゃなくて体で表現する。でも、大島さんは論理的に言ってくる。『前のシーンはこうだから』とか『この心理描写はこうだ』とか。それに対して論理的に返せば監督は納得する。でも、実際に動いてみたらそうはいかない場合があるんですよ。
別の監督には本読みの時に凄く注意されました。『そこは、もう少し弱く』『強くたたみ込んで言って』とか。私は本読みって下手なんです。ですから『現場に入ったらやりますから、もう勘弁してください』と言った。それでもダメでした。
私はただ一生懸命にやるだけです。たとえば、賞をいただける時って、監督が取らせてくれているんですよ。台本のちょっとしたト書を自分で考えたりすると、いい監督はそこを拾ってくれる。『その感じでやってみよう』って。そうすると、何でもない役がいい役になってくるんです。
そういうのを無視する監督もいます。たとえば私が頭を刈って現場に入ったとして、『どうして刈ったんですか』と言ってくるような。そういう感性というのは、大事だと思います」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)ほか。最新刊『時代劇ベスト100』(光文社新書)も発売中。
※週刊ポスト2014年11月14日号