芸能

中村嘉葎雄 低いところしか飛べない鳥でもどこかに行きたい

 歌舞伎の家の出身である俳優の中村嘉葎雄(かつお)は、高校時代に歌舞伎から映画の世界へ転身、日本映画の黄金期を支え、映画、ドラマ、演劇など他分野で現在も活躍している。芝居をするなかで出会った小説家の水上勉や、映画監督の大島渚との思い出について中村が語る言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

 * * *
 中村嘉葎雄は舞台『湖の琴』に出演したのを契機に、原作者である小説家・水上勉の知遇を得ることになる。

「『越前竹人形』の舞台をやった時は、いくら本を読んでも私には水上文学というものが分かりませんでした。それで成城の水上先生のお宅へうかがうことにしたんです。その時、私の演じた喜助の笑い方とか歩き方とか、いろいろとうかがってレポート用紙に書き込んでいるうちに夜が明けてしまいました。

 劇中で特に分からなかったのは『蜘蛛の哲学』を語るところです。蜘蛛というのは、子供を産むとどこかへいなくなってしまう。『蜘蛛の親は子を放って、どこへ行きますやらって、学校の先生に聞いても、お父に聞いても答えてくれない』という喜助のセリフがあるのですが、『これをヒロインの玉枝が聞いて《気持ち悪い》と思わなきゃダメなんだ』と先生はおっしゃる。
 
 しかも『かといって、気持ち悪く言おうとしてもダメだ』と。それで原作を読み直して、自分で考えて、一生懸命やりました。

 レポートには、作品の本質に関わる先生の教えをいろいろと書き込みました。後に再演した時、水上先生は台本が気に入らなかったのですが、その時に稽古場で『嘉葎雄君、ウチに来た時にレポートを取っていたね。まだ持ってる?』と聞いてこられまして。お見せしたところ、『これ、借りるよ』と持って帰られた。しばらくしたら納得いく台本が書けたそうです」

 1960年代半ば、東映を離れた中村嘉葎雄はメジャー作品に留まることなく、大島渚監督作品など前衛的な独立系の映画にも出演していった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

第1子を出産した真美子さんと大谷(/時事通信フォト)
《母と2人で異国の子育て》真美子さんを支える「幼少期から大好きだったディズニーソング」…セーラームーン並みにテンションがアガる好きな曲「大谷に“布教”したんじゃ?」
NEWSポストセブン
俳優・北村総一朗さん
《今年90歳の『踊る大捜査線』湾岸署署長》俳優・北村総一朗が語った22歳年下夫人への感謝「人生最大の不幸が戦争体験なら、人生最大の幸せは妻と出会ったこと」
NEWSポストセブン
コムズ被告主催のパーティーにはジャスティン・ビーバーも参加していた(Getty Images)
《米セレブの性パーティー“フリーク・オフ”に新展開》“シャスティン・ビーバー被害者説”を関係者が否定、〈まるで40代〉に激変も口を閉ざしていたワケ【ディディ事件】
NEWSポストセブン
漫才賞レース『THE SECOND』で躍動(c)フジテレビ
「お、お、おさむちゃんでーす!」漫才ブームから40年超で再爆発「ザ・ぼんち」の凄さ ノンスタ石田「名前を言っただけで笑いを取れる芸人なんて他にどれだけいます?」
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン