世界最古の宿は日本に存在する。それが創業1309年、西山温泉の「慶雲館」(山梨県南巨摩郡)である。
南アルプスの麓、武田信玄と徳川家康が訪れた宿は、705年、藤原鎌足の長男・真人によって開湯された。ギネスブックが認定する世界最古の宿として知られ、成田空港からタクシーで訪れる海外客もいる。第52代目の深澤雄二社長が、暖簾を守り抜く心得をこう語る。
「先代からの教えは、『金は貸しても借金はするな』。副業などに手を出していたらとっくにつぶれていたでしょうね。代々温泉を守ることだけ考えてきたおかげで1300年以上も続けることができたのだと思います」
原則として、食事は「部屋出し」で、ベッドの客室もあえて用意していない。あくまで古き良き温泉旅館にこだわるのが老舗としての矜持だという。
写真は、樹齢2000年以上の古代檜で造られた露天風呂「望渓の湯」。標高800メートル、南アルプスの雄大なパノラマが迫る。
撮影■二石友希
※週刊ポスト2014年11月14日号