現在、「ナイチンゲールの市街戦」は「月刊!スピリッツ」に連載中だ。連載を始めるまで足かけ2年、原作者の鈴木さんと漫画家の東裏さんは現場の取材を重ねたという。鈴木さんはいう。
「お会いしたどの訪問看護師さんも前向きでやり甲斐を感じていらっしゃるのが印象的でした。というのも病棟看護師だと、ひとりひとりの患者さんと向き合う時間が必然的に少なくなるから。なかには『オペだし』といって、病室から手術室までストレッチャーに載せた患者さんを運ぶのがメインの看護師さんもいる。そういう方はふと『自分はなんで看護師になったんだろう』と疑問に思うわけですね。訪問看護師さんになってひとりひとりの患者さんと濃厚に向き合うようになって、看護師の原点を思い出す人が多いみたいです」
漫画家の東裏さんは実際に訪問看護の現場に同行もした。
「実際の訪問看護師さんは美守と違って、40代の人が多いです。そしてみなさんすごく明るい。とにかくよく喋って、人が好きというのが伝わってきます。もちろん現場は大変で、私なんかどう声をかけていいのかわからないような患者さんにも明るく対応されていました。また自宅に行きますから、タンスの上に飾られた1枚の家族写真で、その人がこれまでどういう人生を歩んできたか、垣間見えるところもあるんです。そういう部屋の中の生活臭というか、リアリティを絵で表現できたらいいなと考えています」
これは介護や在宅医療だけに限らず生活保護の問題でもあるが、作られた制度と現実の狭間に落ち込んでもがいている人が必ずいる。それを「彼・彼女らだけの事情」と切って捨てるのではなく、我々の問題として広く共有することが、全体の政策を考えていく上で大事なことではないだろうか。そのためには主人公と患者の個人模様を描く「ナイチンゲールの市街戦」の手法は、遠く離れた田舎の郷里に母親がひとり住んでいる私(神田)の目には、とても有効に映った。親の介護がちらちらと脳裏にかすめる世代に読んで欲しい作品である。