■調査に乗り出さない厚労省

 発達障害児の増加は福岡市の地域的な現象なのか。

 文部科学省が行なった『学校基本調査』によると、少子化が進んでいるにもかかわらず、通常の学級(通級)に在籍しながら個別的な特別支援教育を受ける児童や生徒がこの20年間で約6倍、そのうち「注意欠陥・多動性障害」「学習障害」「自閉症」など発達障害の可能性があるとされている子供は、分類が始まった2006年の9792人から2012年には3万6691人へと4倍近くに増えていることがわかった。

 小中学校の特別支援学校・学級に在籍する児童・生徒の数も制度が変わった2007年から特別支援学校で約2割、小中学校の特別支援学級で3割増加し、全国で増設が進んでいる。

 さらに障害児教育が専門の久田信行・群馬大学教育学部教授は、通常学級在籍者(約1000万人)の中にも、教師から「学習面か行動面で著しい困難を示す」と判断されている児童生徒が7.4%いると推計している。つまり、すでに特別学校や特別学級で学ぶ子供とは別に、70万人以上いるということになる。

 久田教授は、「注意欠陥・多動性障害など発達障害とみられていても、成長につれて落ち着く子が多い。発達には個人差が大きく、障害と決めつけて通常学級から排除する風潮は問題が大きい」と前置きしたうえでこう語る。

「発達障害児の増加には診断基準の変更など様々な要因が考えられるが、長年障害児の研究をしてきた立場から見て、教育の現場で注意が必要だと思われる児童生徒の割合が増えているのは確かです」

 全国的に増加が見られるというのに、医療行政を担う厚生労働省は発達障害児が増えていることを頑として認めようとしない。

 同省は発達障害児の診断件数やその推移について全国調査をしていないが、発達障害増加を示唆するデータがないわけではない。疾病ごとの患者数を3年ごとに医療機関にサンプル調査している「患者調査」によると、「発達障害」に該当する推計患者数は、1999年に調査した約2万8000人から、2011年には約11万2000人に増えているのである(成人を含む)。

 しかし厚労省社会・援護局障害福祉課はその数字を「増えているわけではない」と説明する。

「患者調査の結果を、“最近、発達障害の人が増えてきた”とは捉えていない。平成17年に発達障害者支援法ができて発達障害の普及啓発の義務が定められ、それまで発達障害とは何か知らなかった人が、『私もそうなのではないか』と診察を受けるケースが増えている。それが患者数が増えている原因ではないか。福岡市の発達障害のデータは聞いていないが、もし、発達障害児の診断件数が増えているとすれば、1歳半健診などの早期発見の取り組みで早めに見つかるようになったからだと思われる」

 各自治体の成育医療センターなどに発達障害児の診断件数を調査させるべきではないかとぶつけると、

「診断を特定施設に集約することになり、患者が身近な病院で診断が受けられないし、長い時間待たされる」(同前)

 と否定的だった。どうしてもこの問題の調査、対策を行なうのが嫌なようだ。

 非常事態であるはずの福岡市はどうか。同市こども発達支援課はこう説明した。

「従来は『落ち着きのない子』とされてわざわざ病院や相談機関を受診しようと思わなかったケースでも、発達障害認識が広がったことで、相談に来たり、診察を受ける例が増えている。その結果、診断者数が増えていると分析している。発達障害児の診断者数の増加は全国的な傾向だが、他の政令市では民間病院で受診しているケースは集計が難しいと聞いている。当市は障害児が福祉サービスを受けるためには基本的に市の3施設で診断を受けることになっているため、統計に人数がほぼ正確に反映されている」

 いくら“時代のせい”にしようとしても、世間の常識がここ数年で劇的に変わったとするのは無理がある。ここ数年で劇的に変わったのは新生児管理についての厚労省の指導である。しかも、小学校や幼稚園、保育園の現場から「発達障害児が増えている」という報告が続々と上がっていることは隠しようもない事実であり、それをどう説明するのか。

 厚労省も福岡市も、現実は障害児急増への対応に追われている。

 同市には現在、3~5歳までの障害を持つ子を通わせる施設(児童発達支援センター)が8か所あるが、満員のうえに年々待機者が増え、3年前に1か所新設したのに続いて、新たな施設を建設中だ。全国でも、少子化が進む中、前述のように特別支援学校・学級の増設が進んでいる。どうみても教育現場は障害を持つ子そのものが増えて対応を迫られているのである。

 なぜ、これほど深刻な発達障害児の増加に正面から目を向けないのか。

 佐賀県各地の保健所長として発達障害児の支援に取り組み、海外の多くの論文を研究してきた仲井宏充・元伊万里保健所長(医学博士。内科医)が語る。

「欧州では完全母乳やカンガルーケアの危険性やリスクに関する研究が非常に多く発表されている。しかし、日本ではほとんど紹介されていません。中には日本の研究者の論文もあるが、英文で発表しても日本語にはしていない。心ある研究者は生まれたばかりの赤ちゃんに糖水も人工乳も一切与えないなど非常に危険なケアだとわかっているが、推進派からたいへんなバッシングを受けるから声をあげることができない状況になっている。しかし、いま声をあげないと障害を持たされる赤ちゃんが増えて日本の将来はたいへんなことになります」

 日本の「お産の闇」は深い。実は、政府が調査せずとも真実は明らかなのだ。久保田医師の30年、1万4000人に及ぶ調査は、なぜ「完全母乳」「カンガルーケア」「母子同室」が危険なのかをはっきりと示しているのである。(【2】に続く)

<プロフィール>
久保田史郎(くぼた・しろう):医学博士。東邦大学医学部卒業後、九州大学医学部・麻酔科学教室、産婦人科学教室を経て、福岡赤十字病院・産婦人科に勤務、1983年に開業。産科医として約2万人の赤ちゃんを取り上げ、その臨床データをもとに久保田式新生児管理法を確立。厚労省・学会が推奨する「カンガルーケア」と「完全母乳」に警鐘を鳴らす。

※週刊ポスト2014年11月7日号

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