■20人に1人が発達障害児と診断

 この数年、「カンガルーケア」や「完全母乳」による同様の事故が相次ぎ、大阪、福岡、宮崎、埼玉などで訴訟になっている。福岡の国立病院のケースも帝王切開後の麻酔で朦朧としている母親のもとに看護師が「授乳させてください」と赤ちゃんを連れてきて「カンガルーケア」をさせてそのまま放置。容体が急変して植物状態になり、2014年3月、福岡地裁は病院側の責任を認めて約1億3000万円の賠償を命じた(国=国立病院機構は控訴)。

「カンガルーケア」と「完全母乳」の危険性を訴える久保田医師の元には赤ちゃんが事故にあった両親から多くの相談やメールが寄せられている。

 ある病院では帝王切開で双子を出産した母親に赤ちゃんを2人ともカンガルーケアと完全母乳をさせ、2人は見る見る体重を減らして1人が死亡。母親は退院するとき、病院から「母乳が足りないときは人工乳を与えてください」といわれ、「それなら出産直後のあのときになぜ母乳だけしか与えるなと指導したのか」と激しく後悔したという。

「これは氷山の一角です。呼吸停止という大事故に至らないまでも、相談内容から完全母乳やカンガルーケア中に低血糖や低体温に陥っていたと疑われるケースはかなりある。低血糖は脳に障害を与えるリスクが高いことが知られていますが、正常出産の場合は新生児の血糖値は測らなくてよいとされているため、低血糖の記録は残りません。赤ちゃんに一時的に低血糖が疑われる症状が現われても、その後回復して“大丈夫です”といわれてそのまま退院したケースも多いでしょう。しかし、その時は回復したように見えても、誕生直後の重大な異変が発育にどう影響を与えているか非常に心配です」(久保田氏)

 驚くべきデータがある。

 福岡市では乳幼児健診や医療機関を受診した際に障害の疑いがあると判断された場合、市立の心身障がい福祉センターなど3施設で発達状況について医学的診断を行なうことになっている。そして障害があると診断された未就学児の人数を「発達障害」「運動障害」「精神遅滞」などの種別ごとに毎年調査している。

 この調査によると、1989年に33人だった「発達障害児」の診断者数が、2013年には726人と20倍以上に急増している。「精神遅滞」など他の障害を合わせた診断者数は1192人。同市の出生者数はこの数年、年間1万4500人前後で推移しているから、生まれる子供たちの約5%にあたる20人に1人が発達障害と診断されていることになる。

 発達障害は、注意力が散漫で情緒不安定、椅子にずっと座っていられないといった「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」や知的発達の遅れがない「高機能自閉症」、聞く、話す、読む、書くなどのうち特定の能力の習得が著しく困難な「学習障害」などの症状を示す脳の障害とされている。

 久保田医師は発達障害児急増の一因に「完全母乳」などによる低血糖症があるのではないかと指摘する。

「私は新生児の低血糖症や低栄養による障害児が増えるのではないかと予測して研究してきました。理由は、ある時から厚労省が母乳のみの育児を推奨し始めたことです。とくに93年に『医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと』というWHOの勧告に基づく完全母乳を推進してからは危機感を強くした。母乳推奨には私も大賛成だが、出産直後の母乳がほとんど出ない時期に糖水、人工乳を全く与えない完全母乳栄養児は、生後3日間は飢餓状態に陥り、脳神経発達に害を与える危険がある。そのことはこれまでも学会などで再三警告してきました。福岡市の発達障害データは予測が最悪の形で現実になったものと感じている」

 再び福岡市の発達障害の増加を国の政策との関連で見ると、厚労省が母乳育児促進キャンペーンを推進した1993年以降に増加に向かい、同省が2007年に母親向けの『授乳・離乳の支援ガイド』で完全母乳、カンガルーケア、母子同室を推奨した以降は激増と呼べる増え方を示していることがわかる。

 このデータは福岡市が市議会の要求に対して毎年報告している数字で、記者会見などで公表しているものではない。そのため、新聞・テレビは一切報じていない。

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