水戸岡鋭治氏がデザインしたクルーズトレイン「ななつ星in九州」(以下、「ななつ星」)が運行を始めて1年数か月、車両の完成度の高さゆえ、その人気は衰えることなく、チケットの入手困難な状態が続いている。水戸岡氏は、文字通り全身全霊をかけて「ななつ星」に挑み、究極の車両を作り上げた。その他にも、長野・小布施町に完成した「栗の木診療所」など仕事の範囲は広がり続けている。ノンフィクションライターの一志治夫氏が話を聞いた。
──病院こそ、デザイナーが入るべき領域ではないですか。
日本の病院や老人ホームは、ひどいもので、みんなただのお金儲けのためだけに作っている。本当は、なんとかしてあげたいんだけど、この小布施の診療所みたいに意識の高い先生がいないと難しいんです。この先生は年齢的に僕たちと同じで、もう、人生は一回終わっているので、ちゃんとした病院にしたいということで、作れたんです。
もともと栗林だった土地で、栗の木を残しながら、たくさんの職人たちが集まってきて作ってくれた。「ななつ星」の職人も参加しています。地元小布施の植木職人の久保敏幸さんなんか、予算ないのに、張り切ってすごい木を植えちゃったり、気合が入っていたし、「いやー、漆喰の壁、久々に塗らせてもらって嬉しかった」と言う職人がいたりね。みんな手弁当で儲けなんかないのに、誰も文句言う人はいなかったんです。本当に、みんながちょっと頑張れば、こんないいものができるんですよ。
周辺の人が子どもからお年寄りまでやってくるので、待合室はいつもいっぱいで。遊びに来る人も多くて、帰らなくて困っている、というぐらいです。
──日本中にこんな施設ができればいいですね。
一度、介護施設をやったことがあるんですけど、どこも役所と絡んだ団体がいっぱいあって、それを仕切っている人たちがいろいろと命令してくるんです。そこを通さないとできないことがあまりにも多い。もう、いろんなしがらみで、不思議な人たちがたくさんいて……。
それで、あれほどお金が落ちているのに、こんなにひどい施設ができてしまうのか、ということが日本中で起きてしまうんです。しかも、役所で作ると、だいたい僕たちが設計している値段の倍かかるんですよ。本当は1億円でできるものが2億になってしまう。日本はそこでものすごく無駄なことをしているんです。
※SAPIO2015年2月号