──陸上長距離で強くなるには、根性、我慢、努力……そうした精神力は絶対に必要ですよね。
「それはそうですよ。でも、精神論を押し付けるだけではダメ。今の子は賢いので、理路整然とした根拠のある理屈で説明すれば、やるべきことをやります。ただ、理屈だけでもダメで、中にはやったフリをする子もいる。理屈と情で訴える部分とが車の両輪なんです。どちらかが先行してもいけないですよ」
すると原は、少し遠くを見るような目で話した。
「私が監督になるとき、お前みたいなチャラいヤツが指導者として成功するわけないというのが、専らの見方でした。競技者としても、指導者としても実績がないし、基本的に地味な男じゃないんで……(苦笑)。
例えば練習で60分のフリージョグをするとき、私は速いペースでやってさっと切り上げる。一方でスローペースで60分以上走ってる選手がいる。すると、そちらが真面目で僕は不真面目になる。仕事で用もないのに“ながら残業”している人が真面目に見られるのと同じようなもの。中身を見ないのはおかしい。人間は本質を見抜いて判断しなければいけない。陸上界の古い体質を変えたいという思いはずっとありましたね」
文■高川武将(ノンフィクションライター)
※SAPIO2015年3月号