ライフ

釣りで船長が「リリースってのはやらないで」と頼む理由とは

 痛みを感じないと言われる魚も痛みを感じ、痛みへの恐怖心もあるという研究報告がある。実際、ハリに掛かった魚は暴れるし、ハリを外そうと頭を振りながら抵抗したり跳躍したりする。スズキのエラ洗いやカジキのテイルウォークは何度見ても豪快だが、あの爆発的で無謀な動きも痛みと恐怖心が原因とわかると「ナイスファイト!」の声も小さくなってしまう。

 ただし、痛みのレベルや怖さの感じ方は人間とはかなり違うらしい。釣友で水中カメラマンでもあるT氏に頼まれ、ハリに掛けたクロダイと30分やり取りしたことがある。

 驚いたことに、私がやり取りしたクロダイは逃げながら周辺に漂うオキアミを食べていたそうだ。魚を泳がせておくストリンガーに掛けたクロダイが、足下にこぼれたオキアミを食べようとロープを引っ張りながら泳ぐ姿を目撃したこともある。

 痛み、恐怖心、食欲、それらがどういう仕組みでクロダイの行動を刺激するかはわからない。唇に何本もハリを刺したクロダイを釣ったこともある。そこだけを見れば魚は痛みなど感じないように思えるが、ハリス切れなどで魚を逃がした直後は食いが遠のく。

 伊豆で渡船の船長から「リリースってのはやらないでくれ」と頼まれたことがある。一度ハリに掛けた魚を逃がすとほかの魚も警戒してエサを追わなくなり、「メジナがスレっちまうよ」というのが船長の言い分だった。

 たしかなのは、魚に痛みや恐怖の信号がなければ「場荒れ」現象は起こらないということ。痛みと恐怖を覚えた魚、つまりハリスを切って逃げおおせた魚とリリースされた魚が手強いスレッカラシになるわけだ。そんな魚の動きは周りの魚にも伝わるのだろう。

「危険な場所」へ魚を呼び寄せるのは至難のワザなのである。

文■高木道郎(たかぎ・みちろう)1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。

※週刊ポスト2015年2月20日号

関連キーワード

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン