国内

福島第一原発から20kmの川内村 命を繋ぐ村の象徴・イワナ

 福島第一原発から西に20kmの福島県双葉郡川内村。今では避難指示も全域で解除されたが、村に帰ってくる人は少ないのが現状だ。

 そんな川内村の観光名所のひとつとして長年親しまれてきたのが、「いわなの郷」だ。釣り堀に放流されている岩魚を釣って、その場で焼いて食べることができる。

 岩魚は澄んだ冷たい水でしか生息することができない。その点、川内村を流れる千翁川(せんのうがわ)の清流は岩魚に最も適しているのだという。

 渡邊秀朗さん(65才)は、1994年の施設オープンから、10万匹の岩魚の養殖をひとりで行ってきた。毎年3月頃、養殖の岩魚が孵化し、養殖池に移す作業を行う時期となる。

「あの日もそろそろ池に移さなくてはと思っていた時期でした。でも、激しい揺れで、とにかく避難するように言われ、すぐに戻るつもりでいたのに…」

 後ろ髪を引かれる思いで川内村を後にし、千葉県の友人宅へ身を寄せた渡邊さん。戻って来れたのは1か月後のことだった。

「孵化した岩魚を養殖池に移しましたが、生き残ったのは3割だけでした。20年以上続けてきた岩魚の養殖をここでやめたら、川内の観光がなくなってしまう。村をなくすわけにはいかないと思いました」(渡邊さん)

 どんなことをしても、岩魚さえいれば復活できると、避難先から通い続け、ついに2013年6月に再オープンに漕ぎつけた。

「オープンまでの1年間は、エサを人工のものと自然のものに分けて放射線量を測定するなど、試行錯誤の繰り返しでした。食べることも、売ることもできない岩魚を育てることは、本当につらかったですね」

 今月、孵化した岩魚の親は、震災の時に生き延びた岩魚たちだという。

「岩魚が命を繋いで、その岩魚が人と人を繋ぐ。そして喜んでくれるお客さんがいれば、それ以上うれしいことはありません」

 渡邊さんは、孵化したばかりの小さな岩魚を見つめながら、そう語った。

※女性セブン2015年3月26日号

関連キーワード

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト