国内

高浜原発再稼働差し止め 「誤認を基に仮処分を決定」の指摘

NPO法人社会保障経済研究所の石川和男氏

 既に報じられている通り、運転停止中の関西電力高浜原子力発電所3・4号機(福井県高浜町)について、今月14日、福井地方裁判所(樋口英明裁判長)が再稼働の差し止めを命じる仮処分を決定した。“新規制基準は緩やかにすぎ、安全性は確保されていない”という理由だ。今回の決定に関し、一つ指摘すべき点があると、エネルギー政策に詳しいNPO法人社会保障経済研究所の石川和男氏が解説する。

 * * *
 原子力規制委員会は今年2月、高浜3・4号機の再稼働に向けた事実上の合格を出した。東京電力福島第一原発事故後に、より厳格なものへと改定された新基準を満たしていると認められたからだ。

 この新基準は、地震や津波の想定を拡大し、これを大幅に上回った際の対策を求めている。しかし、福井地裁は新基準の考え方を否定し、“これに適合しても安全性は確保されていない”とした。

 この判断には賛否両論が渦巻いている。市民感覚に寄り添った画期的な判断だと賞賛する声もあれば、ゼロリスクを求めている点で実社会でのルールとしては全く通用しないものだと断ずる声など様々だ。

 この新基準について、安倍晋三首相は常々、国内でも外国でも、「世界で一番厳しい基準」と語っているが、その安全性は一つの下級審の場であっさり否定されたわけだ。司法判断が行われる場合には、原子力発電に係る科学や技術の知見、原子力発電を巡る雇用や経済の効果は何ら考慮されないことが、この仮処分決定から読み取れる。

 今回の福井地裁の決定については、当の原子力規制委員会の田中俊一委員長が翌15日の会見で幾つかの反論をしている。

 例えば、【1】“使用済燃料プールの給水設備の耐震性を最高クラスにしていない”として“規制方法に合理性がない”と断じたことに対し、「給水設備は最高クラスに分類している」と述べ、【2】想定する地震の最大の揺れ(基準地震動)について“信頼性を失っている”と指摘されたことについては、それを誤認だとし、「(決定には)事実誤認がいっぱい書いてある」と語った。

 ところで、事実関係だけを言うと、上記の田中委員長の語っていることは全て真実である。即ち、福井地裁は誤認をしているわけで、原発の賛成派にとっても反対派にとっても、原発が好きな人にとっても嫌いな人にとっても、『福井地裁は誤認を基に仮処分を決定した』というのが、動かし難い真実である。

 今回の仮処分決定は、原発反対派の人々にとってはたいへん喜ばしいことなのだろうが、その根拠が誤認に基づくものであることを理解しているのだろうか?

 国の耐震指針作りにかかわった入倉孝次郎・京都大名誉教授(強震動学)のコメントが14日付けの産経新聞ネット記事に掲載されている。要は、「新基準は原発の耐震設計の基本となる基準地震動について、科学に不確実性が伴うことも考慮して地震の揺れをより厳しく計算するよう求めている。原子力規制委員会が認めた地震動は、原発が立地する地盤の特性を踏まえた上で考えられる最大程度の揺れといっていい。決定は新規制基準を不合理としたが、明らかな事実誤認」であると…。

 この入倉教授の言も、やはり真実である。

 いずれにせよ、関西電力は不服申し立てをするものと見られ、今後、上級審に場を移して改めて判断がなされることになるだろう。上級審での判断が、どのようなことを根拠とするのか、注目したい。再稼働が認められようが認められまいが、どのような内容の決定であれ、誤認に基づく判断ではなく、真実に基づく判断でなければならないはずだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト