「子役からずっと売れ続けるというのは難しいと思う。俺も『わんぱく砦』っていうテレビドラマをやった時は凄い人気で、家の周りには女の子がウロウロするし、ファンレターも段ボール一杯になるという時代があったんだ。でも、番組が終わると半年でピタッとそれが無くなったのね。この世界はそういうもんなんだ、とその時に身についた。でも、気がついたら『潰しがきかねえな』『これをやるしかねえな』という感じになっちゃったんだよ。
その頃は『麻雀さえやっていれば別に仕事がなくてもいいし』なんて思ってた。よく『若い頃はアルバイトとかして苦労した』という人もいるけど、俺は麻雀が本職だったからね。麻雀でご飯を食べていけたんだ。
でも、『火野正平』になってから麻雀は弱くなった。あまりみっともないことはできないから。麻雀で飯を食っていた頃は、どんな汚いことでもやったけど。
麻雀を教えてくれた人には『麻雀はジャンピン(雀品)を大事にしろ』って言われたんだ。『みんながお前とやりたいと思うような麻雀を打たなきゃダメだ』と。それで、『仕事もそうやないか』と思うようになってね。みんなが共演したくなるような、『品』というものを考えようと。どんな汚い役をやっていてもね。
だから、女優さんと芝居する時はその女優がいい女に見えなきゃ嫌なのさ。男優も同じ。俺と一緒にやった人は、かっこよく見えてほしいなと思う。そのために、俺は崩したり持ち上げたりする。そうやっていくのが俺の仕事だと思っているから」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年5月29日号