ビジネス

ドン・キホーテ 小売りの概念壊した「暖簾」と「トンネル」

ドンキホーテ会長兼CEOの安田隆夫氏

 ドンキホーテHD代表取締役会長兼CEO・安田隆夫氏が65歳にして引退を発表した。関連会社も含め全ての取締役を後進に委ねるという。「安売りの帝王」と呼ばれ、売上規模は6000億円を誇るドン・キホーテの成功の秘訣は何だったのか? 安田氏と交流のあるジャーナリスト・藤吉雅春氏が迫る。

 * * *
 安田はドンキを立ち上げたばかりの時、卸問屋と担当店員にこんな指示をしたことがある。

「一週間後、お客様がこの商品棚の前で10分間立ち止まるようにしてください」

 担当者たちは毎晩知恵を絞った。まず、客の目を釘付けにするため、大量の商品を天井から床まで並べて、その一部に目に留まるような笑えるアイデア商品を置いた。それを見た後、全体を眺めまわせるような構成にした。POPには「こっち」「あっち」と指図するよう書き、宝探しの感覚を取り入れたのだ。

 暖簾があれば人間は先を覗きたくなる。トンネルのようにネットが頭上に張ってあると、人間はくぐりたくなる。人の心をくすぐる売り場。それが、単にモノを売るのではなく、非日常的な空間と時間を消費する場にしていったのだ。つまり、彼は「売る」「買う」というそれまでの小売りの概念そのものを壊したのだ。

 壊したのは、マーケティングでも戦略でもなく、安田が抱えた人間への探求心。この一言に尽きる。こうした感性は、言葉の通じない世界での体験も大きかったかもしれない。

 彼はアフリカ、アマゾン、ニューギニアなど世界の秘境を一人でよく旅をした。電気もない世界で、原住民と寝食をともにするには、まず子供たちと仲良くなることだという。そうすると、子供の母親や祖父母が近づいてくる。こうして言葉が通じない人々の気持ちを理解していった。

 しかし、時代は変わり、総合スーパーやデパートは軒並み不振に陥っている。「買う」概念を壊した安田を上回る勢いで、ネット販売が世界を凌駕しつつある。

「それ以前に、物欲に対して社会全体が希薄になっています。何か欲しいものは? と人に聞けば、『彼女』とか『暇』というが、モノについては『別に』と言う。昭和にあったモノへの飢餓感がなくなった」

 では今のお客様が本当に食品や消耗品しか買わないかといえばそうではない、と安田は続ける。

「モノを聞くから『いらない』というだけであって、『気持ちいい』とか『楽しい』のように、心を豊かにしたいか、と聞けば誰だって『したい』と答えるでしょう。その気持ちをモノに繋げることができていない。その気持ちを結びつけるのが我々の仕事だと思う」

※SAPIO2015年6月号

関連記事

トピックス

“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
『あんぱん』“豪ちゃん”役・細田佳央太が明かす河合優実への絶対的な信頼 「蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはず」
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン