「たぶん、そういうのが俺の役目なんだろうね。俺が現場に入る時の口癖は『おはよう、おはよう。僕が来たからもう大丈夫だよ』だから。何が大丈夫やねんと思うんだけど。まあ、これも生き残っていくための一つの手段だったのかもしれない。
現場が一番楽しいんだよ。現場のスタッフとは『はい、会費千円』って感じで飲み会を開いて、そこで『また、ああいう面白いことやりたいねん』『よっしゃ』と繋がっていく。それで作品が面白くなったら、それが一番いいじゃないかと思うのね。
『長七郎』で誰かを尾行するシーンで掘割の脇を歩くんだけど、それをただ後からつけるんじゃ、おもろないと思って。のんびりした雰囲気を出したいから『タライで追いかけるわ』と言ったんだ。でもタライは穴ぼこだらけで浮かない。それで車のチューブを持ってきて、みんなで下に付けて浮くようにしたこともあったんだ。
台本を貰ったら、どうやったら面白くなるかを考えるんだ。哀しい場面では笑わせようと思うし、みんなが笑っていたら哀しくしようと思う。何か、そういう味付けがあった方が、その作品は面白いんじゃないかな。時代劇っていうのは楽しくなきゃいけないと思うから」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年6月12日号