ライフ

韓国・釜山の国際市場で生きた一家の苦難の現代史を描く映画

 さまざまな商店が並ぶ商店街や市場は、どこの町でも活気を作りだしている。はじめての町に行く時も、楽しいのは商店街や市場を歩くこと。そこは「千客万来」の世界なのだから。

 韓国の釜山に国際市場というにぎやかな市場がある。狭い路地に屋台を大きくしたような店が並ぶ。戦後、個人商店が戦時物資を売るようになって発展した。日本の終戦直後に生まれた闇市に似ている。

「国際市場で逢いましょう」(「TSUNAMI-ツナミ」(2009年)のユン・ジェギュン監督)は、この国際市場で生きた一家の現代史を描いている。

 朝鮮戦争の混乱期、一家は北から南へと逃げる。避難民を運ぶアメリカの船に乗り込もうとした時、幼ない妹の一人がはぐれてしまう。妹を探すために父親だけが港に残る。まだ小さい長男に「お前が家長だ、家族を守ってくれ」と言い残して。

 一家は親戚を頼って釜山の国際市場に行く。米軍の放出物資などで市場はにぎわっている。その活気のなかで父親と別れた一家はなんとか生きてゆくことになる。子供が靴磨きをする。ジープに乗った米兵に「ギブ・ミー・チューインガム」とねだる。学校数が足りなくてテントで授業をする(青空教室)。混乱の時代である。

 長男のドクス(ファン・ジョンミン)は青年に成長する。一家の中心となって肉体労働で働く。一九六三年。ドクスは、西ドイツに出稼ぎにゆく。炭鉱労働者になる。過酷な仕事で得た金を家族に仕送りする。

 ドクスのおかげで一家の暮し向きは少しずつ良くなってゆく。西ドイツへの出稼ぎが、家族を支えた。ドクスは西ドイツで知り合ったヨンジャ(キム・ユンジン)という美しい女性と結婚するが、彼女も看護師として西ドイツに働きに行っていた。

 さらに一九七四年。すでに家庭を持ったドクスだが、より多くの収入を得るため、ベトナム戦争に技術者として加わる。命がけの仕事をする。ドクスは父と別れる時に言われた「家族を守ってくれ」という言葉を心に刻み、家族のために働き続ける。

 監督のユン・ジェギュンは一九六九年生まれ。ドクス役のファン・ジョンミンは一九七〇年生まれ。若い世代が、自分の両親の世代が生きて来た歴史、生きるための苦難を描き出している。韓国における家族の重さを考えさせる。

文■川本三郎

※SAPIO2015年7月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

コムズ被告主催のパーティーにはジャスティン・ビーバーも参加していた(Getty Images)
《米セレブの性パーティー“フリーク・オフ”に新展開》“シャスティン・ビーバー被害者説”を関係者が否定、〈まるで40代〉に激変も口を閉ざしていたワケ【ディディ事件】
NEWSポストセブン
漫才賞レース『THE SECOND』で躍動(c)フジテレビ
「お、お、おさむちゃんでーす!」漫才ブームから40年超で再爆発「ザ・ぼんち」の凄さ ノンスタ石田「名前を言っただけで笑いを取れる芸人なんて他にどれだけいます?」
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン