WHOによると、現在25か国で1218人が感染し、少なくとも449人が死亡。アメリカやドイツなどでは感染者が確認されているが被害は拡大していない。
なぜ韓国だけなのか。現地を調査したWHOは、患者が複数の病院を受診する「ドクターショッピング」や、入院の際に家族や友人知人が長時間付き添う「お見舞い文化」など、韓国特有の習慣が院内感染の拡大に繋がったと分析する。
しかし、WHOが最も手厳しく指摘したのが「初動対応の遅れ」である。東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授(予防医学)が指摘する。
「MERSは初期の感染力が弱く、感染後2~3日のうちに隔離して封じ込めば二次感染は防ぎやすい。感染してから5日目以降は感染者の体内でウイルスが増殖して急激に感染力が高まる。最初の患者がその時期まで大部屋に放置されたことが、1人で大勢の人に感染させる“スーパースプレッダー”となった要因です」
また、感染者が出た病院が公表されたのは最初の感染が発覚してから2週間以上過ぎてからで、公表した病院名や所在地を間違えるという杜撰なものだった。韓国保健福祉省が発表した予防手引きは、「ラクダの生肉は食べるな」という程度のもので、これには韓国国民ですら失笑していた。
思い出されるのは昨年4月のセウォル号沈没事故だ。救助にあたった海洋警察は船内に取り残された乗客の捜索を怠る初動ミスを犯し、政府が発表する安否情報は訂正を重ねた。これは全く別の話というわけではない。
※週刊ポスト2015年7月3日号