1台6000万~8000万円と高額の検診車だが、対がん協会傘下の検診団体の負担は少なく済ませられる。たとえば競輪とオートレース実施団体であるJKAは対がん協会傘下の検診団体などに毎年1000万~2000万円を胃部X線検診車への補助として支出している。
筆者はそうした日本対がん協会の各支部が地元自治体からどの程度の割合で検診を受託しているかのリストを関係者から入手した。
すると、80%以上の受託率が21団体。100%独占の団体が4つあった。契約内容を調べると、受託率100%の福井支部は、すべて随意契約。90%の青森支部も同様にすべて随意契約と判明した。
そのような自治体検診の独占を可能にしているのが天下りだとする証言を得た。
「私が所属していた支部の幹部の大半が天下りでした。地元の県職員の定年退職者で、がん検診を管理する健康局の人間が多かった」(対がん協会支部・元幹部)
取材班は今回、全国の対がん協会支部の天下り実態を調査した。その結果、検診事業を行なっている35支部に少なくとも65人の自治体幹部が天下っている実態が明らかになった。
自治体が公開する再就職情報を辿ると愛知では2007年以降11人の天下りがあった。各支部の役員の報酬額は年収360万円から650万円に集中している。仮に、胃がんリスク検診を導入すると、ピロリ菌の未感染者は検診を受ける必要がなくなる。そうなれば、検診団体の収益が激減するのは必至だ。
すると困るのが、天下る役人だ。多くのカネが検診団体に入るバリウム検査のほうが、彼らにとっては都合がいい。
そうした利害関係がある中で、ガイドラインの作成委員が検診団体の役職を兼ねることは、リスク検診よりバリウム検査を推奨した判断にバイアスがかかっていた疑いを招く。
●岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2015年7月10日号