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所沢市導入の育休退園制度「退園が怖くて子供がつくれない」

「ここでなら子供を産んでも大丈夫だと信じて、結婚してから夫婦で相談して、ここを選んでマイホームを買い、ようやく引っ越してきたのに、本当にショックです…」

 埼玉県所沢市に住むA子さん(30代)はそう言って肩を落とした。今春に生まれた次男の出産を機に、市内の認可保育園に通う2才の長男が退園を求められているのだ。

“理不尽”な対応の背景には、所沢市が今年4月から始めた「育休退園制度」がある。この制度は、保育園に0~2才児を預けている母親が出産し、父母のどちらかが育児休暇を取得すると、それまで保育園に通っていた園児は原則退園しなければならないというものだ。育休退園に詳しい原和良弁護士は言う。

「“育休を取ったら、上の子の面倒も家でみられるでしょう”という発想から生まれた制度です。最大の問題は、子供が退園すると、職場復帰のときにまた保育園を探す『保活』が必要になってしまうことです。退園させられる子供の気持ちへの配慮は全くありません。保護者は2人分の保活が必要となり、職場復帰のハードルが非常に高くなります。これでは安心して出産や育児休業取得ができなくなります」

 この制度が生まれた理由の1つには、待機児童解消という目的がある。さらに、所沢市の藤本正人市長(53才)の「子供が話せたらきっと『お母さんと一緒にいたい』と言うはずだ」という発言からもにじみ出る、子供は3才まで母親が育てるべきという「3才児神話」思想も色濃く反映されている。この育休退園制度は、熊本市や堺市(大阪府)などいくつかの自治体で既に導入されている。

 所沢市は「育休を終えて復職する際、子供を希望の保育園に入れる」としているが、確約はない。市内の保育園に子供を通わせながらも、この制度に納得できない保護者11人は6月25日、記者会見を開き、子供の退園差し止めを求めて市を提訴した。

 前出の原弁護士は11人の保護者の代理人だ。今回裁判にまで至った経緯を解説する。

「東京のベッドタウンで共働きが多い所沢市は、これまで市と保育関係者、保護者の関係が良好でした。しかし、今回所沢市長が、条例で設置した『子ども・子育て会議』にもかけず、周知期間も設けずに、制度を導入した結果、これまで築き上げてきた市と保護者の関係を一方的に覆しました」

 冒頭のA子さんは原告の1人だ。産休に入る1週間前の今年3月半ばに、育休退園を初めて知った。

「長男を保育園に送った朝、先生から『育休退園の動きがあるらしい』と聞きました。動揺して、その日は一日中仕事が手につきませんでした」(A子さん)

 市から書類で正式な通達が届いたのは4月中旬だった。A子さんの長男は、2人目が生まれた月から翌々月の月末、つまり7月いっぱいで退園しなければならないという。

「周りにはすでに退園させられた子供もいます。来年1月までに復職したかったけど、子供が2人とも同じ保育園に入れるか保証されず、将来の構想が大きく狂いました。不安で眠れない日が続いています。夫は“ありえない!”と激怒しています。所沢でもう1人産むつもりでしたが、この制度が今後も継続するならば、マイホームを手放しての引っ越しまで考えています」(A子さん)

「市内の保育園に子供を預けている母親全員がほぼ同じ思いだろう」と、待機児童の問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは言う。

「通常、0~2才児のクラスではよく聞かれる『次の子を妊娠した』というママの声が市内の保育園では、4月以降全く聞かれないそうです。退園が怖くて誰も子供がつくれない状況なんです。高齢出産が増え、間をあけずに複数の子供を産みたい女性にとっては特に切実な問題です。今回、原告となった所沢の母親らは、働きながら子供を3~4人産んでいます。そうした人たちに“もう子供を産むな”といわんばかりの行政は、完全に時代に逆行しています」(猪熊さん)

※女性セブン2015年7月23日号

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