2020年東京五輪のメイン会場となる新国立競技場の建設計画は、総工費が2520億円という前代未聞の額に膨らんだことで各所からの批判が相次ぎ、17日に安倍晋三首相は「計画を白紙に戻す」と、建設計画の全面的な見直しを表明した。
総工費が膨らんだ原因の一つとされるのが、「キールアーチ」と呼ばれる2本の流線型アーチだ。仮にキールアーチがそのまま採用されれば、その建設に際して近くを走る地下鉄大江戸線に大きな影響が及ぶ懸念もあり、それを解消するための費用が総工費に含まれているのか疑問の声も出た。さらには、周辺整備費の72億円が記載されていないなど、あまりにも杜撰な状況だった。
費用がドンブリ勘定なのは開閉式屋根も同じだ。五輪終了後に取り付けられる屋根の工費は予定では168億円だが、「実際は300億円近くかかる」(建築エコノミストの森山高至氏)と指摘される。ゼネコン関係者の話。
「キールアーチ構造に合わせるためにドーム球場の屋根のような膜状の素材を使うしかない。ただし設置するには地上70メートルで作業する足場を造らなければならないし、競技場中央部に巨大なクレーンを置く必要がある。その際、競技場の芝生を剥がすなどの作業は必須で、工事期間中は競技場を一切使用できなくなる」
工期は「最大1年」といわれ、五輪後に長期の開店休業状態に陥りかねない。また、新国立競技場は東西で約10メートルの高低差がある。それを平らにするため、西側の地面全体を人工地盤(コンクリート)で約10メートル嵩上げする案が検討されているという。
「その人工地盤の工費も今回の試算には含まれていなかった。そうなると総工費が3000億円を超えるのは避けられない」(前出・ゼネコン関係者)というのだ。
仮に工費圧縮のために嵩上げを諦めると、競技場そのものは高低差を織り込んで建設する予定なのでグラウンドが傾く事態は回避されるが、「西側入り口付近だけ階段が異様に多い妙な競技場になる」(前出・森山氏)と指摘されている。
※週刊ポスト2015年7月31日号