本来、経団連には原材料やエネルギーを輸入しなければならない鉄鋼メーカーや電力会社など円安が進みすぎると困る企業が少なくないし、経営者の本音は賃上げなどしたくない。
あるいは、政府・与党も野党も派遣社員を減らして正社員を増やせと言っているが、それは雇用制度が硬直化して日本企業の競争力を削ぐだけである。しかし、そんなことを言ったら袋叩きに遭うから、経団連は安倍晋三首相の要請に唯々諾々と従っているのだ。
その一方では、かつて経団連が果たしていた政策提言の役割を、今や政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議が直接担っている。しかも、その中で主導的な役割を果たしているのはサントリーホールディングスの新浪剛史社長や楽天の三木谷浩史会長兼社長ら若い経営者だ。
経団連の榊原会長、日本商工会議所の三村明夫会頭、経済同友会の小林喜光代表幹事もメンバーに名を連ねてはいるが、これは政策提言の役割を期待されているわけではなく、英語で言うところの「ex officio」(職務上)、すなわち慣例で入っているだけである。
実際、今回の農協改革は、新浪氏が農林水産省の官僚たちと粘り強く協議し、全国農業協同組合中央会(JA全中)の解体まで持ち込んだと言われている。経団連の存在意義はここまで薄れてしまったのである。
※SAPIO2015年8月号