夏を迎え、映画館では大型作品が続々と上映されている。しかし、子どもの観客が多いこの季節は、マナーを心得ない客に遭遇する可能性も大。親子連れに鑑賞を邪魔されたような場合、映画館に料金の返金を求めてもよいのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
大人向けの映画を観に行ったとき、指定席に着くと後ろに若夫婦と幼児がおり、上映開始後すぐに子供が騒ぎ始めました。映画館には観客に快適に鑑賞させる義務があるはず。作品の内容からして幼児が耐えられないのはわかっていたのに、親子の入場を断わらなかった映画館側に料金の返金を求めてもよいですか。
【回答】
映画館は観客からお金をとって映画を見せるのですから、その映画館で期待される程度の静謐(せいひつ)な環境を保ち、鑑賞させる義務があります。観客の一部が騒いで、他の観客の鑑賞を妨げる事態になれば、これを防止したり、中止させる責任があると思います。映画上映のはじめに、注意事項を放送するのもその一環です。
あなたがいうように、映画の性格から幼児がむずかるのが必至といえる映画であれば、入場時に注意を喚起すベきでしょう。その上で、入場する観客を拒否できないでしょうが、騒げば退場を求めることがありえる旨を断わっておくと、その後の対応もスムーズに行くはずです。
また、そこまでしなくても映画上映中に観客の子供が騒ぎ、注意する親の声が周囲の観客の映画鑑賞を妨げているのを映画館側が承知し、放置すれば上述の映画を鑑賞させる義務に違反したことになります。とはいえ、静謐を妨げられることはままあることで、多少のことはお互い様でしょうが、例えば映画鑑賞を台無しにしたような場合には、鑑賞料の返還を要求できる場合もあると思います。
しかし、映画館側が注意し、情理を尽くして説得しても、それでも親が聞かなかった場合、映画館側は親や子供を拘束して追い出すような実力行使まではできません。それ以上の対処をしなかったとしても、義務違反にはならないでしょう。むろん、映画館側が子供の大泣きに気付かなければ、義務違反は問えません。
映画館で迷惑行為があったときは、当の相手に注意するだけでなく、施設の管理者に申し出て対応を求めることがポイントです。黙っていれば、何も請求できません。映画館も評判を大事にするでしょうから、観客に気分よく鑑賞させるため、努力するはずです。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年8月14日号