トランプは出馬表明演説で、「(メキシコからの移民は)麻薬と犯罪を持ち込む。そして彼らは強姦犯だ」と煽り、「メキシコとの国境に万里の長城を築く」と言い放った。いまやアメリカでは「暴言王」と呼ばれている。ヒスパニックからは猛烈な批判を浴びているが、本人は意にも介していないのだ。到底、大統領になる器ではない。
なぜこんな人物に人気が集まったのか? 背景には、アメリカ国民の、ヴィジョンのある政治家を選ぶ能力が落ちていることがある。政治家も劣化しているが、国民も劣化しているのだ。私が古くから知っている見識あるアメリカ人は最近、「アメリカ人であることが恥ずかしい」と言って憚らない。
さすがにアメリカ国民も気付いたのか、本稿締め切り直前に入手した別の世論調査では順位が大きく変わった。それによると1位がスコット・ウォーカー45%、2位がジェブ・ブッシュ44%、3位がマルコ・ルビオ42%となっている(支持するかどうかを問う調査のため、合計は100%を超える)。ちなみに民主党のヒラリー・クリントンは36%で、共和党陣営より信頼されていない結果が出ている。
唯一、私が注目しているのが急浮上したスコット・ウォーカーだ。2011年にウィスコンシン州の知事に就任してすぐ、公務員の団体交渉権を制限して、労組と対立した。すぐに反対派からリコール請求され、2012年にリコールが成立する。しかし、ここでくたばる男ではなかった。再選挙では対立候補を圧倒して知事の座に復帰したのだ。
ウォーカーが大統領にふさわしいかどうかは今後の発言を見なければならない。だが、47歳と若く、正しいと思ったらケンカも辞さぬ姿勢は評価できる。いずれにしても、ヘビーウェイトの候補が1人もいないのは気になる。
※SAPIO2015年9月号