「SNSで火が点くというのはこういう現象なのかと、慌てて注文を追いかけ増産しました」と斉藤氏も目を丸くする。結局、半年間で3200万個を販売し、今では定番商品の仲間入りとなった。
「弊社は年に約400個の新商品を出しますが、生き残って定番となるのは3~4%程度。この商品は堂々たるヒット商品と言えます」
「メロンパンの皮~」のヒットは、地方工場の独自開発力に負うものだった。見えにくい消費者の細かな欲求を生産現場が汲み取ることができた成果だった。しかし世の中は今、軒並み「選択と集中」による効率化へと向かっている。地方の各工場が独自に新商品を企画・開発し個性的な商品を生産する流れは一般的には失われつつあるのだが……。
「いや、生産だけではありません。弊社の工場は卸業者を通さず流通業者や小売業者に販売する機能も持っています。デイリーヤマザキなど直営の店舗もあります。消費者の声を直に聞き取るというエリアマーケティングの精神が、根付いているんです」
ヤマザキの地方工場は、細かなニーズを汲み取るマーケティングの窓口としても機能していたのだ。
「これまでにも札幌工場が商品開発した『ふんわり食パン』など、地方発で人気となり全国販売となった商品はいくつもあります」
では、地方発のヒット商品と、本社はどう向き合っているのだろうか。
「人気に火が点いた時点で全国に素早く商品が行き届くための手配、別工場での生産支援や品質のチェックといった調整役を担っています」
地方工場には本社の言うことだけを聞いていても成長しない、自分たちがやらねば、という自主自立の精神が息づいている、という。一方、本社は全体を俯瞰しながら地方工場の能力を拡大していく役割を担う。両者が車の両輪となって売り上げに貢献していく。
「メロンパンの皮焼いちゃいました。」というシャレの効いたネーミングについて、「本社の私たちでは考えつかないと思います」という斉藤氏の言葉が印象的だった。
「もし本社で考えたら、『スウィートクッキー メロン風味』みたいな平凡な名前になってしまうでしょうね。それではヒットしたかどうかわからない」。地方工場の優れた開発力をリスペクトする本社の姿勢が、その一言に滲み出ていた。
撮影/片野明
※SAPIO2015年10月号