タイ警察の取り調べを受ける日本人詐欺グループの男ら。2019年4月。この頃は日本への特殊詐欺海外拠点に関する報道は多かった(時事通信フォト)
数年前から、特殊詐欺の闇バイトから逃亡すると、見せしめなのか、SNSなどにプロフィールが晒されるといったことが起きていた。最近は、不都合な情報を晒すことを罰として実行する手口が相次いでいる。特殊詐欺について取材を続けるライターの森鷹久氏が、真偽不明なSNS投稿による被害をきっかけに、詐欺拠点に滞在する人向けのサービス業に従事する日本人女性の存在と、ニュースとしての消長についてレポートする。
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「筋の悪い連中による嫌がらせ行為です。まず、それが事実かどうかの前に、本人のセンシティブな部分をSNSで一方的に暴露する方法は犯罪ですから」
言葉少なにこう話すのは、都内の芸能プロダクション関係者。系列事務所に所属するセクシー女優が、海外で売春行為に手を染めているなどとSNS上で誹謗中傷されているという。あまりに一方的かつ脅迫的で、顧問弁護士と共に法的対応について検討しているとも話す。しかし、ネットでのこういった被害回復のために、警察や司法の手を借りようとしても、心理的、経済的負担が大きいうえに、時間もかかるから現実的ではないと敬遠するのも無理はない。
実は、彼女がこんな噂を流されてしまった件については、カンボジアをはじめとした東南アジアの詐欺拠点が次々に摘発されている件が背景にある。事実はどうあれ、少しでも事情を見聞きしたことがある人にとっては、信憑性がある情報だと受け取らかねない情勢にあるのだ。
詐欺拠点と周辺で高まる需要
筆者はかねて、東南アジアの詐欺拠点は主に中国系によって運営されており、そこへ世界各国から自発的に、または強制的に連れてこられた人々が半ば軟禁され、いわゆる「オレオレ詐欺」から最近流行の警察なりすまし詐欺、国際ロマンス詐欺など、ありとあらゆる詐欺を行っていると指摘してきた。実際に、この半年ほどの間に、それら拠点がかなりのスピードで摘発され続けている。4月の記事では、こうした詐欺拠点やその周辺で働く複数の「日本人女性」の存在について触れた。
SNSで誹謗中傷をうけた前出の被害女優が、詐欺拠点に集まる人たちへのサービスに従事していたという確たる証拠はないが、完全に否定することもできない。なぜそういう雰囲気になってしまっているのか、現地で何が起きているのか、東南アジア在住で、法人向け不動産管理会社を運営する日本人男性が説明する。