『俺たちの勲章』は澤田幸弘、出目昌信、降旗康男、斎藤光正ら、錚々たる監督たちが各話を担当している。
「澤田さんがパイロット(第一話)をやったんですが、その段階ではまだ試行錯誤でしたので、こちらも役を極端に演じていました。それに対して澤田さんも即座にいろんなことを考えてアイディアを出してきて、そこから『これだ』というのを選ぶ。その判断力が凄かった。なるほど、と思ったのは出目さんの演出です。オーソドックスなんです。小細工しないでちゃんと撮る。その王道こそが実は無敵なんだと思い知らされました。
それから、なんといっても斎藤光正さんです。『こうやれ』と指示する監督ではなくて、『こいつは笑顔はいいけど、怒った顔はよくない』とか、観察力が鋭い人で。『シュン、お前、普段ああやってるだろ。そのままでいいんだ』と言ってくる。
芝居にはいろんな表現があるということを感じさせられました。『われら青春!』の時は先生役でしたから、一つのイメージというか、型にはめた感じで演じていればいいというのがあった。でも、『勲章』は何でもありでした。そうなると今度は自分自身が出てしまう怖さもあるし、『哀しい時は泣けばいい』というような『1+1=2』ということでもない。
一年弱という短い期間でしたが文学座でやってきて、自分でも『芝居とはこういうもの』というのがありましたが、そういったファンダメンタルなこととはまた違った表現というのは凄く大変だと思いましたね」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中。
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号